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スマートフォンのプレゼント

やっと「iPod」なるものが、ささやかながら使えるようになってきた。使いこなせていないので、まだ公に「友達申請」を受け入れていないのだが、練習相手になってくれる方々と日々、練習中。

なのはいいが、今度は別の問題が生じてきた。というのは、いつもお世話になっているハビ吉が「facebook」をやっていないので「messenger」も当然できない。というわけでハビ吉と密に連絡を取り合うには、どうしても「スマートフォン」が要る。

スマートフォンには「ワサップ(と私には聞こえる)」とかいうものがあり、そこでメッセージをやりあうのらしい。
「あぁあ、ハビ吉のためだ!スマートフォンを購入しよう」
すごい決心だ。十年に一度の。私は自分の決心が変わらないうちに、ピアノレッスンを終えるとその足で、契約している電話会社へ向かった。

「私のしている契約で、この今の携帯からスマートフォンに変えることはできますか?」
「・・・・・」
お姉さんはしばらく黙っていた。私の携帯を手の平で転がしながら
「これはかなり古いモデルですよね」
と、まだこんなものを使っているのか、というような口調で言った。そしていまどき、スマートフォンが使えない契約などはない、ということをそれでも丁寧に教えてくれた。

「一番安いスマートフォンって、いくらですか?」
お姉さんはうなづくと、後ろの棚から新品のスマートフォンを取り出した。
「これで、80ユーロです」
「ははぁ・・・」
高いのか安いのかわからないまま、話を聞く。説明によると、キャパシティとモデルにより値段はどんどん上がっていくのらしい。
「えーと、私はワサップができて、メールができて、写真が撮れるのがいいんですけど」
「・・・・・」
お姉さんはまたしばらく黙ると、いまどきそんな当たり前のことができないスマートフォンはない、ということをまた丁寧に説明してくれた。

その日はお店がすいており、他に誰も客がいなかったのでお姉さんも暇つぶしにいろいろ教えてくれたのだろうが、忙しかったらきっと叩き出されていたのにちがいない。

その日はそこまで。まずはハビーに相談しようと電話をする。
「スマートフォン、買いに行ったんだけどね・・・」
そのとたんハビ吉は、はっと息を飲み
「もう買っちゃった?」
「ううん、相談してからにしようと思って」
「OK!今日、一緒にご飯食べよう。詳しくはその時にね」

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ハビ吉は上はチェックのシャツだが、下はスチュワートの紺パンツに革靴で現れた。聞けば、ロンドンからのフライトの帰りだと言う。
「はい、プレゼント!」
「何?」
箱を開けると、なんと中からスマートフォンが現れた。
「ちょっと早いけどクリスマスプレゼント」
あまりの驚きで、「グラシアス」という言葉も出てこない。
「こ、こ、これは?」
「僕の。でも新品だよ。これを買ってすぐ『アップルの6』に買いかえたから全然使ってない。今、家から取ってきた」
「ははーっ」

cimg3750 聞けば、この私のものとなるスマートフォンは「アップルの5」というモデルで、当時の価格は300ユーロ以上という。
「うわーっ、そんな高いの?いいよ。私には高すぎる。高価すぎて家から持ち出せないよ」
「持って歩かなきゃ意味ないじゃん」
「だって。私が持ってるもので一番高価なものはピアノ。次はパソコンとオウム。それと並ぶ値段だよ。心配で持って歩けないよ。大切に家にしまっておく」

するとハビ吉は、穏やかな口調で言うのだった。
「いい、今はアップルの7が最新モデルで、これは1000ユーロ以上するんだよ」
「・・・・・・」

cimg3752 すごい。そんな、私の一か月の収入より高いものを、みなさんポケットに入れて持ち歩いてるの?気を失いそうになったが何とか正気を取り戻し、その『アップル5』なるものを、ありがたく両手で受け取った。
「ハビー、グラシアス!」
するとハビーは、私の目をまっすぐのぞきこみながら
「いい?一つ、条件がある」
「なに?」
「クリスマスまでに僕にメッセージを送れるようにすること!」

なんという。9月から「iPod」、そして11月からは「スマートフォン」。これはやるしかないであろう。しかし、ワサップってなに?