いよいよ『マラガ~バルセロナ海岸線・北上計画』が、本格化してきた。
わたしたちは、おそろいのロゴ入りTシャツを作るため、プロジェクト名を考えていた。
「旅、っていうと、カラバナ(キャラバン)、って感じかな」
「じゃ、ムシカ(音楽)のカラバナ(キャラバン)で、ムシカラバナは?」
「ムシカラバナね。いいよ。じゃ、MUSICARAVANAって、書くんだよね」
わたしたちは、色とりどりのマーカーでロゴを作ると、さっそくギジェルモのもとへ走った。
ギジェルモは、この『マラガ下町コミュニティ』を支える、縁の下の力もち。
第2のオフィスと呼ばれる『コピー屋』の主人である。
「ええっ、バルセロナまで?」
ギジェルモは、あきれていたが、『お金持ちの家・ポスティング200枚』とか
『ピアノレッスンします!300枚』よりはましなので、黙ってTシャツを作ってくれた。そして、
「気をつけてね。今年の夏は、特に暑いらしいから」
と、眉間にしわをよせながら言った。
ニュースによると、半世紀ぶりの『猛暑』らしい。
「警報も出てるらしいよ」と、危ぶんでいたが、
「きゃ~、かわいいっ!」
と、できたてTシャツを店先で試着しながら、コピー客を前にくるくる回転するわたしを見ると、そっと口をつぐんだ。
そして、そのときのギジェルモの言葉は、『ムシカラバナ』2日目、
ムルシア街道で40度の熱風に吹きさらされたとき、
わたしの脳裏によみがえったのであった。
さて、一週間前になると、ベラは自慢の『自炊セット』と『釣り道具』を、丹念に手入れし始めた。
これはいつものことである。次に食料。米、水、缶詰など、約20キロ。
そして最後に、ラジオと懐中電灯、ナイフと斧と薬。
これは、いつもの『お出かけ5点セット』なので、カソーラのキャンプにも、モロッコの旅にも、持っていった。
「以上!」
って、勢いはいいが、これだけ?これで約1ヶ月、生きのびるの?
ケータイとか、あった方がいいんじゃないの?
とりあえず、旅のあいだだけでも借りるとか・・・。
ベラのバルセロナの友人宅が、この『ムシカラバナ』の『ゴール地点』と決定し、「約1週間かけて、キャンプしながらたどり着く」
というところまで、決まった。
友人、家族に連絡し、いつもお世話になっている音楽プロダクションのミゲルやカルロスに1ヶ月いないことを伝えると、
「飛行機で行けば?1時間だよ」
「海岸線を北上したいし、釣りをしながら、捕った魚を食べて旅する」
とベラが言うと、とたん黙って電話は切られた。
さて、いよいよキャンピングカーの『試乗』である。いつも、ぼろぼろの車ばかり運転しているベラは、
「どの車にも、くせがあるからね。よーく知ることが大切。馬とおんなじ。」
と、楽しげにレクチャーを受けている。
わたしは、『ミニ・キッチン』の使い方について教わる。
そして、最後は、後部のテーブル席が、いかにベッドに変身するのか、という講義であった。
「おお~っ」
「なるほどー」
わずか3メートル四方のスペースが、台所、リビング、食堂、寝室と、めまぐるしく姿を変えていく。
ただしそれは、『荷物』が少ないからできることで、
わたしたちのように、電子ピアノやスピーカーという『大きく重い音楽機材』を、どか~んと乗せている場合、
そこまでのスペース変換は、難しく思えた。
そこで、昼間は『台所』、夜は『寝室』の2つのモードで、生活できるよう
『物も置き方』が、決められることになった。
オウムのチュッピーも、当然いっしょに旅するので『鳥かごの位置』は、流しの横と決められた。
最後に、このキャンピングカーを貸してくださるブライアン&サミー一家が
「旅のお伴に!」
と、手渡してくれたのは、50センチ四方の白い箱。プラスティック製。
「いざというとき、必ず役に立つから!」
と太鼓判つき。両手でうやうやしく受け取るが、いったいこの箱は何なのか。
「ほら、どうしても間に合わないときも、あるでしょう」
って、ふたを開けてびっくり。
それは『携帯トイレ』なのであった。