9. ニッポンの遺産

こんばんは、ベラです。
ここまで読んでくださったみなさん、ありがとうございます。
今日は「日本の床生活」について、書こうと思います。

ももの家に行き、僕は生まれて初めて「床生活」をしました。
玄関で、まず靴をぬぐととろに「段差」があり、
そこから「床生活」が始まります。
その先は、もう座ったり、寝っころがったりすることができます。

そのために、カーペットやじゅうたんがひかれており
僕は、裸足で家の中を、歩いていました。
あっ、「畳の部屋」も、あります。
家の中には必ず「木」の部分があって、
スペインとは、まるでちがいます。

僕たちの住んでいるマラガのマンションは
骨組みはレンガ、床はタイルで、壁や天井は石膏(せっこう)が主です。
色を塗るには適していますが(ももが言うには)、
建物全体が「暑い夏用」に作られ、ひんやりとしています。
特に「足元が寒い」ので、冬はソファの上に足をのせています。
また、外からリビングに入ってきた友人たちは、靴を脱ぎません。
だから、たえずモップで床掃除をしなくてはなりません。

日本の家は、正反対です。
濡れたモップで床掃除はしません。
ももの家には、「床暖房」というのが入っていて
その上に座っても、寝てもよく
僕たちはそこで、ゲームをしたり、みかんを食べたりしました。

あんまり気持ちよかったので、二度ほど眠ってしまいました。
そしたら、とみ子さんが「まくら」を貸してくれました。
眠ってもいい、リビングの床。
そうして床生活をしているうちに、僕は大切なことに気づきました。

床に座ると、視点が下がる。重心が下がる。
見える景色がかわる。
日本人は、大地にずっと近いところで生活しています。
大地のエネルギーを受けて。
ヨーロッパの、上へ上へ、天に向かって上りつめる思想とは正反対です。
日本人は、下へ下へ。

みさのちゃんと、ようちゃんの家に行ったときのこと。
食事のあと、ソファに座っていると、
ようちゃんがとつぜん床に座って、僕の足をマッサージし始めました。
僕は、びっくりしました。
それは、まるで「王様の前にひざまづく」ような、スタイルだったからです。
申し訳なくて、困りましたが
そのうち、ようちゃんの力強い思いが、その指先から伝わってきました。
そして、いっしょに床に座ってマッサージを見守る、
みさのの、うれしそうな表情を見ていたら
二人が、とても幸せなことが、わかりました。

ひざまづける日本人。
床生活をする日本人の、それが「心の位置」なのです。
視線も、重心も、心の位置も低い。
大地とつながっている日本人。

そのことがわかって、僕はとてもうれしくなりました。
そして、思い出しました。
僕がマラガでときどきする「瞑想」。
そのとき、座布団の上に座ります。
月に1度か、2度。

でも、そんな暮らしを毎日している日本の人たち。
今、思ったけど、2000年以上の歴史を持つ、
東洋の国~中近東の国では、みんな「床生活」を続けていますね。
そこに、祖先から「ゆずりうけた遺産」を、感じます。

僕はさいしょ、ももといっしょになったとき
「2000年の歴史をもつ、東洋の国の女の子なんだ!」と思って
とても期待をしました。
伝統的な暮らしをするんだろうなぁ、と思ったからです。
そしたら、ももはとても「現代的」な女の子でした。
びっくりするくらい。
意見もはっきりしていて、ものおじをせず、
新しいことにどんどん向かっていく。

でも、そのうちわかってきました。
ももの、周りの人に対する態度はとても「東洋的」なのです。
あるとき、僕は仰天しました。
ピアノの生徒一人一人に手書きで、イラストまでつけて
「よくがんばりましたね・・・・うんぬん」
と、学期終了を祝うカードを書いているのです。
「そんな先生、いないよ」
と言うと、ももは笑っていました。
「だって、みんなよくがんばったんだよ」

そこに僕は、ももの「ニッポン人」を見ます。
日本にいるあいだ、いつも感じていたあの、心がすっとする感じ。
ニッポン人が「古来から受け継いだ最大の遺産」は
この「相手を思う気持ち」だと、僕は思います。

とみ子さん、のぶゆきさん、とくさん、
大野さん、クロさん、後藤さん、伊藤さん、中岡さん、Tomillo、
みさの、ようちゃん、けいこ、須田さん、藤城さん、小林さん・・・・
たくさんの人に、お世話になりました。
みなさんの名前を、あげられなくてごめんなさい。
ほんとうに、ありがとうございました。
ベラ

 

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより