おうちの涼しい所に置いてください

先日、ベラの薬を買いに
薬局へ行くと
長蛇の列ができていた。

これはまぁ、いつものことなので
驚きはしないのだが
待たされているお客さんがどうしが
「クラゲに足を刺されて、ほら!」だの
「食あたりでお腹の調子が悪くて、もう!」だの
ここに来た事情を
悲愴な表情で訴え合うので
その気はなくても
すっかり事情に精通してしまう。

さらに
「うちのいとこがこの間・・・」とか
「叔母が大変でねぇ・・」などと
ただ行列をしているだけの
間柄にもかかわらず
その家族の健康状態まで
知らされることになる。

もちろん、この間
「そうー、大変ねぇ」
「まぁ、困ったでしょう」
と、真剣な表情で
合いの手が入るのが
マラガらしいところ。

さて、お店のお兄さんが
クラゲに刺されたという
ビキニ姿のお姉さんに
「おうちの涼しい所に置いてください」
と、言った。

私は、ふーんと何気なく聞き流したが
その薬を受け取ったお姉さんは
力強く、言い返した。
「家の中に、涼しい所なんかありませんよ!」

不思議な感動が
私の中に、流れ込んだ。
そのとおり。
家の中では、扇風機が
熱い風をかき回しているだけ。
どこを探しても
家の中に涼しい所など
見つかるはずが、ない。

おうちの涼しい所に置いてください。
そう言われて
「はい」
と、何も考えもせずに
答えるところであった。

爽やかな風のような
お姉さんの力強い回答。
クラゲに刺されたくらい
大丈夫そうな気がしてくる。

「あつーいっ、はあぁ~」
と言いながら
ビキニでお店を出ていく
お姉さんの後ろ姿を見送りながら
心で拍手をおくった。

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより