盗難事件・4

昨日の続き。三日たち、やっと「アイフォーンが届いた」との連絡が。レッスンを午後七時半に終え、その足でお店へと走る。

「これです!新しいアイフォーン7」
「・・・・・」

これが、盗まれたのでなく、自分の意思で機種替え。ということならば
「おおーっ」
とひとしきり感激。となるところだが私の場合、ハビ吉からもらったアイフォーン5で十分。

もってくれるなら一生これでよい。と思っていた組なので、箱から取り出されたばかりのピカピカ光るアイフォーンは、100ユーロ札7枚にしか見えない。

「すべすべすぎて手から滑り落ちそう」
それが、第一印象。なにより、私の興味は
「これを今すぐ設定して、すぐ使えるようにする」
ことなので、まだこれからスタート。なのである。

「お願いです。お店が閉まるまでに使えるようにしてください」
「わかりました。大丈夫ですよ」

その言葉を聞いた瞬間、安堵でへたり込みそうになってしまった。なにしろアイフォーンを立ち上げる(でいいのか不明)のに、まずいろいろ設定しなくてはならない。ことくらいは知っている。

問題は
「どうやってどこから何を」
なのである。電源を入れれば使える。という時代は終わったのだ。

「一つ一つ決めて入力する」
という単純作業ではあるが、一番困るのは
「聞かれていることがわからない」
ことである。

何を質問されてるのかがわからないのだから、答えようがないではないか。しかしこの日はお姉さんと一緒。パスワード以外はほとんどお姉さんの手で、アイフォーンは仕立てられていった。

「指紋で開けるようにしておきますね」
「はぁあ?」
なにもかもが、未知の世界。お姉さんは実に手際よく、三十分ほどですべての作業が終完了。

「ワッツアップもfacebookもダウンロードしておいたので今すぐ使えます」
「電話をかけるので、受け取ってみてください」
優しいお姉さんは、電話の練習までしてくれるのだった。

そして、ついに。
「さぁどうぞ。新しいアイフォーンです!」
お姉さんは笑顔で、ピカピカ光るそのものを手渡してくれた。

「ってことは、お支払。ですよね?」
「そうですね」

クラクラしながらお支払をすませ、新しいアイフォーンを鞄に抱きかかえるようにして帰宅。あまりに高額なので
「これからこれを持って外出できるのか」
ちょっと不安。

いかなる買い物も、これ以上に高いことは私の場合ありえない。前のアイフォーン5がハビ吉のお古だっただけに
「ただ。から700ユーロ」
というのは、お花畑からエベレストくらいの急上昇である。

その時、ダビーから連絡が入った。
「ハビーから聞いたよ。鍵屋さんに連絡するから、鍵部分の写真を撮って送って」

そして三十分後。
「特価でやってくれることになったよ」
「ほんと!ありがとう」

聞けば
「長い友人で貧乏な上にバッグごと盗まれて、でも200ユーロが払えず夜はドアにつっかえ棒をして寝ている」
と拝み倒したと言う。

「そんなこと言わせてごめんね」
「いや、嘘ついてるなら別だけど、全部本当のことだから」
「・・・・・」

さっそくお店に電話をしてみると、お兄さんが明るい声でアテンドしてくれた。
「話は聞いてます。60ユーロでやりますよ」
「本当に!ありがとうございます」

「ただ、一つだけ条件が・・・」
「なんでしょう」
急にドキドキしてくる。

「安い理由の一つは、僕たちがそこまで行かないから。つまり、鍵をドアから外してお店まで持って来てもらって、ここで直して持って帰ってもらい、それをご自分で取り付けてもらわなくてはなりません」

「できますか?」
「もちろん!できます、できます」

これも先日、お隣のDさんのお兄さんと
「ドライバー片手に解体」
したおかげである。

初めての体験であったが、あの時一緒に鍵をはずし、再び鍵の取り付けまで行ったので、予行練習はバッチリ。人生無駄なことは一つもないのだ。

「では明日、伺います!」
うきうきして電話を切ったまではよかったが、その瞬間、とんでもないことに気づいた。

「鍵をはずしてお店に持って行く」
ということは、その間
「家には鍵がかかっていない」
ということ。

「うわー、誰かに家にいてもらわないと」
友人の大半は仕事をしているので、平日の午前中などほとんど不可能。

仕事していない友人。つまり主婦か年金生活者。の友人を頭に思い浮かべる。さっそく連絡をしてみるが、なにしろ明日なのでみなさんもう予定が入っている。

いったいどうしよう。その時、ドアが強く叩かれ、私を呼ぶ女性の声がした。

(明日に続く)


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「盗難事件・4」への2件のフィードバック

  1. なんか映画になりそうなくらい手に汗握る話です。

  2. はっはっは。今だから書ける話ですが、当時は「いったいどうなるのか」先がまったく見えず、まさに手に汗握る日々でした。

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