もうずいぶん前の話になるが、うちのアトリエ(マンション)の天井の電気がぶっ壊れ、配線を直しがてら天井に「石膏」を塗る、という機会があった。
もちろん、行ったのは電気屋の兄さん。なのだが、その光景を横でじっと見ていた私は、興奮の渦に巻き込まれた。
私の目と心をくぎづけにしたのは「石膏」であった。まるで小麦粉の要領でお兄さんは「石膏の粉と水」を混ぜていった。
そして。さっきまで、ただの粉と水だったものが、かき回され、もっちりとした「粘土風のもの」へと変化するのを見ると、もうじっとしていられなくなった。
「ぐにゃっ」
と石膏をつかむ。右手で。あぁあ。なんという快感。私は我も忘れて、ぐにゃぐにゃを繰り返した。
ふと我にかえると、お兄さんが私の背後で黙って立っていた。
「あぁあ、すみません」
「いいですよ。よかったら、残りあげます」
かくして、石膏初体験は、美大でも文化教室でもなく、電気屋のお兄さんによってもたらされた。
そして。思えばあの瞬間「粘土や陶芸」への興味が、私の中にしっかりと根付いたように思う。
あのお兄さんは、まさかそんなことになっていようとは思ってもいないだろう。
でもいつか、粘土細工か陶器でもできた日には、まずあのお兄さんにプレゼントしたいと思う。