指の先から絵の具が出たら

この五月。「もも衣」をペイントしながら、何度も思ったこと。
「指の先から絵の具が出たらなぁ」

こんな突拍子もないことを思いつくのは
「ピアニストだったこと」
とも関係があるかもしれない。

ピアノは指で弾く。鍵盤を押した瞬間、すぐ音に変わる。
その時、私の音の間を結ぶのは「指の動き」それだけなのだ。

絵を描いていて、どんどん乗って来ると
「私と絵の間にあるもの」
がうっとおしくなってくる。

パレットや筆や水や。

だから、集中してくるとたいてい私は
「左手にチューブ、右手に筆、もしくは指」
という状態で、ものすごい勢いで動き回っている。

基本的に数点を同時進行なので「回遊魚」のように、次の作品へと移って描いていく。

絵の具が乾くのを待ちながら。その時間さえも、惜しい。ことがよくある。特に

「次に置く色や場所がはっきり見える」
時なんかは、いちいちメモしているわけではないので
「早く描かせて~」
って、もうじたばた。

そんなこともあり
「指の先から絵の具が出たらなぁ」
と、とんでもないことを願いながら、よくペイントしている。

もちろん、手はぼろぼろガサガサ。指輪もまったくしたことがない。先日も友人と夕食に出かけたら
「あっ、絵の具ついてるよ。腕に!」
「ありゃー。手は洗ったんだけど。こんな色気のない手じゃ、男は誰も近寄らないよねぇ」

「そういう手がステキ、っていう人が現れるって」
と、女友達は映画の中だけで起こるようなことを言いいながら、グラスを掲げるのであった。

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