昨日の続き。鎮静剤を打ち始めると徐々に意識がなくなっていくので、その前にルイスは家族みんなをベッドの周りに集めた。
「ウイスキーを持って来てくれ」
「ウイスキー?」
「みんなで乾杯しよう」
「えっ・・・」
「一杯くらい飲んだっていいだろう」
ルイスは穏やかな笑顔を浮かべて、私たちを見回した。その表情は
「これが、最後の乾杯だ」
と、言っている。それがわかっているから、私は涙をこらえながらリビングに走った。
ウイスキーグラスを人数分抱えて戻ると、ルイスは息子さんたちの手を借りてベッドから立ち上がっていた。
「イスに座りたい。乾杯の時くらい」
それぞれのグラスにウイスキーが注がれる。その瞬間、私の中で何かがはじけた。
「記念写真、撮ろうよ!みんなでウイスキーで乾杯してるところ」
ルイスの笑顔を、撮っておきたかった。最後の乾杯。最後のウイスキー。家族みんなが笑っている写真を。
それが、もう大盛り上がり。ルイスを囲んでウイスキー片手にすばらしい笑顔。本当にこれが最後なの?と思えてくる。
息子さんたちは、その場で写真がほしいと言い、すぐにアイフォーンで送信。しばらくウイスキーをなめながら、写真に大笑い。楽しいおしゃべりが続く。
「プリンセサ、無理して飲まなくていいんだよ。沢山ウイスキーが入っちゃったね」
こんな時でも、私のグラスのウイスキーの量を気にしてくれるのだ。
「ドゥーケ(公爵)、私はもうとっくに20歳は過ぎてるの」
ユーモアで返すのが、私たちの習慣。こぼれる笑顔が、私の心に刻まれていく。
ウイスキーが大好きで、いつも氷を3つ入れて飲むルイス。昼食前に食前酒として一杯。それにおつきあいするのが、私たちの習慣だった。
昨年の5月、誕生日祝いに訪れた時も、私たちはウイスキー を飲んでいた。昼間っから。奥さんのマリに内緒で(写真一枚目)。
私にとってルイスはスペインの父。なので、実家へ戻るような気持ちで毎年ルイス&マリ宅へ訪問していた。
だからまさか、この写真を撮った一年後に、こうして別れの時がやってくるとは、思ってもいなかった。
「プリンセサは、なんて笑顔がよく似合うんだろう」
この写真を彼のスマホに送った時、ルイスは何度も言ってくれた。
だから、今日のブログは一年前の「ウイスキーで乾杯」の写真を載せたいと思う。私の大好きなルイスの笑顔。
品があって人間的な優しさにあふれ、知的で穏やかで、ユーモアがあって。
乾杯の後、ルイスは家族に「病院へ入ること」を告げた。一瞬、場が凍りつく。なぜならそれはたった一つのこと
「鎮静剤を打ち始めること」
を、意味していたから。
(明日に続く)