引き換え券

2013年に入り、スペインは恐ろしい不況のまっただ中にある。
わたしたち音楽屋も、またしかり。
2月14日はこれまで「バレンタインデーのロマンチックディナー」がある日、
つまり、わたしたちにとっては「仕事の日」であった。
それがどうであろう。
ホテルもレストランも口をそろえて
「予約がなくてねぇ・・・」
って、悲しげな口調で訴える。

「うわあぁ~、どうしよう。これでは仕事なし?」
わたしたちはうろたえ、電話をかけまくるが、返事はどこも同じ。
仕事がないということは、お金がないことなので
「ももの誕生日は、うちでごはん食べよ!」
と、べラはのんびり。
それはまぁ、覚悟していたが、まさかプレゼントまで
「買えないから、何とかします!」
と、言い切られてしまった。

さて当日、プレゼントは3つあった。
ひとつは、うちの近所で、べラがつんできた「野花」。
ふたつめは、「マッサージ」。
そしてみっつめは、自信満々で手渡す「白い封筒」。

「なに、これ?」
と、封筒の中の紙を広げると、そこにはべラの5歳児のような絵とともに、
「この券は、次のものと引き換えができます」
と、書かれていた。
そして、引き換えができるのは
「ロマンチックディナー」「誕生日ケーキ」「ペンギン」「何でも」の4つであった。

「ひやあぁ~っ」
わたしは引き換え券を握りしめながら、日本の母を思い出した。
小さい頃、いつもこうして「肩たたき券」だの「お手伝い券」だのを
母の日になるたび贈り、結局使われることのなかったあの引き換え券たち・・・

「有効期限はありません!」
と、べラは胸をはるが、わたしは自分のしたことが長い時間をかけて回りまわってくる
「因果応報の法則」を、しみじみと実感していた。
「ありがとうね・・・」
大切に引き換え券を受け取りながら、よく見ると
「何でも」券の横に、小さな文字で
「ただし、オウム以外」と、書かれていた。

歴史はくりかえされる。

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「引き換え券」への2件のフィードバック

  1. ベラ、かわいいね。

    しかし、音楽屋さんのお仕事は人々の心のゆとりと連動しますね。Web業界も同様だけど。。。

  2. 先日、日本の母にべラが電話で、それも日本語で
    「ももに、花をおくりました!」
    と自信満々で言っていたので仰天し、あわてて電話をかわり
    「でも、お店で買ってきた花じゃないよ、野原でつんできた花だからね」
    と言うと、「はあぁ~っ、野原?」と大笑いしながら
    「なんか、とくばあちゃんみたいだねぇ~」

    「なんにもいらん」と言う口ぐせは、
    たしかにべラと、とくばあちゃん共通してますね(笑)

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