日本帰国中に名古屋へ行く約束があった。7月19日。裁判所へ行くのはこれで3回目だったが、この日は大切な「証拠提出」を求める日。
私の展示会やワークショップにいつも顔を出してくださる喜邑さん。いつも笑顔でパワフルでとてもこんな冤罪に巻き込まれたご家族とは思えない。
しかし「証拠もない」のにいきなり息子さんが逮捕され、無罪を訴え続けるもまるで聞いてもらえず、一方的な裁判が一年に渡り進んでいた。
それを直で目にしてきた。昨年の7月、12月も私は名古屋高裁の傍聴席に座っていた。どのように裁判が進むのか目の当たりにし、その一方的で機械的な態度に怒りで体が震えた。
この日私たちは名古屋の高裁に集合し、冤罪を訴える被告人・喜邑拓也さんの「証拠提出」を求めるためにのぞんだ。
そしてそのために東京から弁護士の今村核先生も駆けつけてくださっていた。
「被告人の置かれた状況で、実際にその行為(裁判所いわく犯罪)が可能なのか」
を、あらゆる角度から科学的に実証して明らかにしよう。という今村先生ならではの現実的・科学的アプローチにより「3つの証拠提出」を求めた。
求めたのは「提出」であって、それを見た後で「判断を下せば」いい。だが、名古屋高裁刑事第1部の山口裕之裁判官は、軽く言った。
「却下します」
まるで、流れ作業のように。今村弁護士が再度、証拠提出の重要性を訴えても
「却下します」
さらに今村弁護士が、熱い口調で山口裁判官に訴えかける。
「裁判は公正に行われるべきものです。都合のいい証拠だけを集めて、それ以外は認めないとなれば、これは日本の裁判システムそのものに問題があることになるのではないでしょうか」
しかし。山口裁判官は表情ひとつ変えず、乾いた抑揚のない声で、ポツッと言った。
「却下します。はい、次に進みます」
どよめきと怒り。呆然。絶望が入り混じった法廷から、私はしばらく立ち上がれなかった。
こんなに簡単に、流れ作業で人の人生を決めてしまっていいのか。「証拠を提出してから」「判断」では、何か都合が悪いことでもあるのか。
あさって8月23日。喜邑さん家族は再び名古屋高裁へと向かう。今回は傍聴席から応援できないけれど、スペインより無罪の判決をお祈りしています。