1週間ほど前の夜。10時過ぎに突然雷のような音が響き渡った。「嵐でも来るのか」とテラスに出るとなんと。マラガ港で花火が上がっているではないか。
「はて、お祭りでもあったっけ?」
と思いながら見ていると、花火の終了と共に船の汽笛が「ボーッ、ボーッ、ボーッ」。そう、クルーズ船の出航セレモニーだったのだ。
うちのマンションの前の海はちょうどクルーズ船の通り道。なので、よく大型船の出入りが見える。
美しくライトアップされたクルーズ船が、ゆっくりとマラガから出て行く。次の寄港地へと向かって。
なんとなく切ないような気持ちになる。私自身は地中海クルーズに乗船したことはなく、いつも眺めるだけ。
旅人もいいが、出かけるのと同じくらい私は家にいるのも好き。友達とおしゃべりするのと同じくらい、アトリエで1人黙々と作業をするのも好き。
今頃、船上ではディナー後の華やかなショーやダンスタイムが始まっているだろう。優雅な装いに身を包んで。
そんなクルーズ船を見送りながら、私は絵を描く。手を指を、シャツを絵の具でいっぱいにして。けして優雅ではない。が、50歳を迎えて
「本当にしたいことをする一人の時間」
ほど贅沢なことはない。とも思う。