中学生の時にピアノ教室に通っていたN君が、8年ぶりに訪ねて来てくれた。当時から「美」に関する意識が高く、センスのいい子だった。
聞けば現在はフランスで建築家になるため勉強中。来年卒業とのこと。そういえばよく絵を描いたり工作をしていたのを思い出す。
「この絵、覚えてる?」
壁いっぱいに貼ってある子供達の絵の中の、1枚を指して私は尋ねた。N君はきょとんと首をかしげている。
「あなたが8年前に描いた絵」
一瞬息を飲んだのがわかった。じっと絵を見つめるN君。
「描いたことも・・・忘れてた」
「あなたがプレゼントしてくれたのよ」
「ずっとここに飾っていてくれたの?」
「もちろん。沢山の人がこの絵は誰が描いたのって聞いたわよ。ほしいって子もいた」
N君は、子供の頃から繊細で完璧主義だった。こういう絵を描く子は珍しい。将来はデザイナーになるのかな、と思っていた。
肩を並べてピアノレッスンをしていると、数ヶ月休んだだけのように思えてくる。あっという間に8年前の、ふだんの私たちに戻っていた。
毎週重ねた時間というのは消えないのだな。8年ぶりに再会しても、私たちには共有する「居場所」があるんだな、と改めて思った。
「今度はまた数年後かも。でも弾けるようになったらまた来ます」
N君とハグをする。「どうやって帰るの?大丈夫?」「もう免許もあるよ」
変わらない笑顔と瞳がうれしかった。私には子供がいないけれど、訪ねて来てくれる子供たちがいる。
作曲をするセルヒオ。ソルフェージュを学ぶアレハンドラ。子供たちの手を、表情を毎日見て暮らしている。
だから、私は笑顔になるのかも。笑いかける人がいるから。みんな、私を先生にしてくれてありがとう!