23. 豊橋観光とカレーうどん

今日は、ベラ初めての「豊橋観光」。
といっても、わたしの買い物につきあって
豊橋駅前をのんびりぶらつく、半日コースである。

まずは「100均」。
話には聞いているが、店内に足を踏み入れるのは初めて、というベラに
買い物かごを「はいっ」と、勢いよく手渡す。
「好きなもの買っていいよ~、全部100円だから」
べラはさっそく「毛糸の帽子」を手にすると
「これも、100円?」
「そう」
次に「野球帽」を手にして
「これも、100円?」
「だから~、全部100円だって!」
「・・・・・・・」

どうにも信じられないらしく、何度も何度も
「これは、100円なのか」
と、いちいち確認する。
これではうるさくて買い物にならないので、
とりあえず「30分自由行動、レジに集合」ということにした。

わたしは、最初から買いたいものは決まっていたので
リストに従い、次々とかごにつっこんでいく。
なにしろ、「3年ぶりの100均」。
ニッポンのみなさんにはわからないだろうなぁ。
「100均のない生活」って。
あんまりうれしくて
ここに半日、置き去りにされてもかまわない、と思う。

あっというまの至福の30分が過ぎ、レジに行くと
「わあぁ~っ」
「ああ~っ」
互いの買い物かごを見て、声をあげる。
わたしはかご、山盛り2つ分。
ベラは「帽子」と「懐中電灯」と「新聞用・メガネ」だけ。

「ちょっと、こんなもの、スペインでも買えるじゃん!」
ベラのセレクト3品に文句をつけると
「だってこれ、必要だもん。今すぐ」
「せっかく日本に来たのに~」

しかし、ベラはがんとゆずらず、店を出るとさっそく
「毛糸の帽子」をかぶり、胸ポケットに「メガネ」を入れ
背中のリュックに「懐中電灯」を、大切そうにしのばせた。

「もも~、つぎはどこ行くの?」
「古本屋!」
ブック・オフに入ると、ベラは目を丸くした。
「これが、古本屋?」
なにしろマラガで古本屋といったら「骨董屋」である。
店に入ると暗くて雑然としており、ほこりっぽい。
まぁ、それはそれで趣きがあって、わたしは好きなのだが
ブック・オフはぴかぴかだ。
それも、すっきり整理整頓され、照明も明るい。

「わぁ~、ビデオもCDもあるよ、これ、どうかなぁ」
声をあげているベラをそこに置き去りにし、
わたしはまっすぐ「105円・古本コーナー」に、進んだ。
今日のわたしは、真剣だ。
なんせ「3年ぶりの日本の本屋」なのだ。

「いざっ!」
タイトルを見る、選ぶ、本をひきぬき、かごに入れる。
この動作を、一瞬にして、次々くり返す。
店内のニッポン人のように、だらだらはしていない。
なにせ、3年ぶりの本屋。
そして次は、いつまた来られるかわからない「本屋」なのだ。
意気込みがちがう。
1分だって、無駄にはできない。

「うわあ~、よくそんな早く、決められるねぇ」
ベラがあきれながら、わたしの完全自動化された動きを眺めている。
「それ、全部買うの?」
「み、み、宮部みゆき・・・あった!」
「みんな105円なの?」
「西村京太郎も買っとくか・・・えっ、なにか言った?」
相手にしてもらえないと判断したベラは、そのうちどこかに行ってしまった。
そして30分後、お支払いを終え、お店を出ると
ベラは店の前のベンチに座っていて、「懐中電灯」のテスト使用を
豊橋一の目ぬき通り「広小路」で、ひとり行っていた。

「もも、おなかすいたよ~」
「はいはい、お昼にしましょう」
広小路に、人気の「玉川うどん」があったので
ベラはランチ。わたしはカレーうどんのセットを食べることにした。

ランチにはうどんに、天ぷら、お刺身、煮物がついており、お得な1000円。
わたしの方は、カレーうどん。
おいしくてあっというまに半分食べてしまったが、
そのとき仰天することが起こった。
底から、「ごはん」が現れ始めたのである。
「これは、いったい・・・・」

よくよく考えれば、最初から底に「ごはんの固まり」が入っていて
「第一部・うどんとカレー」が終わった頃をみはらかって、
「第二部・ごはんとカレー」が始まる!という
良心的なシステムだったのであろうが
3年ぶりにうどん屋に入り、心の準備もできていないわたしは
突然、カレーうどんにごはんが混じり出したので
数秒、はしをとめて考えていた。
「まさか日本で、前の人のごはんを洗い忘れたわけではないだろうなぁ」

顔をあげ、周りを見るが、みんなふつうにカレーうどんを食べている。
そして、お店の壁に
「これが、豊橋名物!ごはん入りカレーうどん」
みたいなことが書かれているのを発見し、
やっと心を落ち着かせて、はしを進めることができたのだった。

スペインに17年も行っているあいだに
「豊橋名物」も、変遷をとげていたのだ。
ヤマサのちくわにも、知らない新製品がいろいろ出ているし
行こうと思っていたお店は、もうすでにつぶれてなくなっているし・・・

こうして知らぬまに、わたしは少しずつ「浦島太郎」になっていくのだろう。
豊橋を歩きながら、自分が「よそもの」のように感じる。
「地元人」でなく、「観光客」。
「豊橋出身」とプルフィールに書いただけに
それは、ちょっと哀しい感じだった。

さて、一方ベラはランチに大満足で、ぺろりとすべてをきれいにたいらげた。
お店の人は、すっかり空になった器を目にするなり
「ああ~よかった!外国人の方だから、お口にあうかなぁと思ったんだけどねぇ」
「おいしかったです、ごちそうさまでした」
「ああ~、よかった、よかった」

最初から「よそもの」のベラは、「観光客」を存分に堪能している。
日本に着いてからというもの、何のガイドできず、日本語も怪しく
何をやっても無能のわたしであったが、思えば
「44年の17年」、つまり「40%」は、もう「外国人」でもおかしくないのである。
要は、ブレンドの仕方の問題だ。

「大和なでしこ」と「ラテンの激辛スパイス風味」が、
うまく混ざってくれていればいいのだが。

(「ニッポン驚嘆記・24」につづく)

 

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