いよいよ明日から「名古屋~岐阜・4日間の旅」が始まるので
わたしたちは、きみどり家の居間を占領して、荷物の準備。
だいたいマラガの下町エル・パロくんだりで、のんびり暮らしているので
名古屋~岐阜といえども、わたしたちにとっては「大移動」なのだ。
できるだけ荷物を減らすため、わたしはキャリーつきスーツケース(小)、
ベラはバイオリン、リュック、小バッグの3点セット。以上。
「それだけで、だいじょうぶなのぉ?」
と両親はあやぶむが、移動中ずっと両手を開けておきたいので
わたしはパジャマも、傘もカットした。
ようやく、荷物も落ち着き、ベラはきみどり家の撮影に入る。
玄関、仏壇、神棚、床の間、縁側・・・
「そうそう、ベラちゃん、これかぶって!」
父が100均で買ったきた、「時代劇かつら・お面」をもってくる。
「は~い、かぶせるからね!」
母にされるがままになっているベラは
まさか自分が「殿」のかつらお面をつけられているとも知らず
「お世話になります」
などと素直に、じっとしている。
両親は自分たちも、かつらお面をつけると
「はい、記念写真、撮って!」
と、わたしに向かって言い放った。
「うわあぁ~っ」
3人そろうと、強烈な「図」だ。
これを家族写真、記念写真と呼ぶのだろうか。
ベラなど、「ふむむっ!」とうなりながら
全身に力をみなぎらせている。
「長旅でたいへんだから、もう一回、コスモドクターやっていきん!」
母が準備を始めたのは、機械につながれた電気のシートで
「その上に座っているだけで効く」という不思議なマッサージ機である。
それを見ると、ベラは顔色をかえ
「ああっ、また電気ショックだ!」
と、1回目のことを思い出して
「ノー、ノー」
と断った。なにしろこれに乗るたび、
べラはその後ものすごい睡魔の襲われ、2時間もしないうちに眠ってしまう。
「まだ、寝たくありません」
というベラの願いはこの日も聞き入れられず、
この日も、「電気ショック療法(ベラいわく)」は、続いた。
いよいよ出発の時間となり、車に乗り込む。
「今度、豊橋に来るときは、病院コンサートだね」
「そのコンサートの翌日には、もう大阪に行って、スペインに帰っちゃうんだねぇ」
「・・・・・・・」
その言葉を聞くと、ベラは急に黙りこみ
「もう、この家には、来ないの?」
と、ぽつりと尋ねた。
「時間あればね~」
と答えると、急に表情が消え、それきり何もしゃべらなくなってしまった。
きもどり家に、すっかりなついてしまったベラ。
わたしは、いっしょうけんめい
「病院コンサートのあと、たぶん家に戻る時間あると思うよ。
それに翌日、大阪に行く前に、お昼ご飯もいっしょに食べれるよ」
と、なぐさめた。両親は
「最後に買い物でも何でも、好きなことしたら」
と言っていてくれていたが、わたしが
「べラはこの家にもう一度、帰って来たいと言ってるし、
買い物より、みんなでご飯食べるほうがいいって」
と、伝えると、
「そうかぁ~、ベラちゃん」
「一人でスペイン、帰れるのかねぇ~」
と、すっかり黙りこんでしまった象を見ながら、話しあった。
(「ニッポン驚嘆記・26」につづく)