【一日一作プロジェクト】キャンバス地にペイントして「音月の花束」を作った。今期は「やった事のない」ことを、自分に課しながら作っているので
「どんな作品になるのか、最後まで全くわからない」
笑。スタート時とまるで違うものが、徐々に現れてくる驚き。計画性はないが、そのかわり道のりは常にスリリングで刺激的。
「ええっ、この始まりでこのゴール?」
みたいな(笑)。いやー、最初や途中の写真があったらおもしろいと思う。でも、制作中は集中しているので、なかなか写真にまで気が回らない。手も汚れているし。
「絵の具が届きました!」
画材屋のお姉さんから電話が入る。こんなに絵の具の大量注文をしたのは初めて。なので、私もお姉さんも興奮気味。
「よかったら、パロ地区に行く用事があるので夜でよければお届けします」「おぉお〜、よろしくお願いします」
夜9時。お姉さんは、疲れ切って現れた。表情も髪の毛も、マスクも声も、全てがくたくたオーラを放っている。聞けば
「新しいコロナ規制が発令され、お店が午後6時クローズ」
と決まったために、パニックに陥った美大生やアート関係者が、こぞって店へ大量に押し寄せたらしい。
「朝から、休む暇もなかった」
お姉さんは、本日最後の仕事である「私の絵の具の入ったダンボール箱」を、ずるずると引きずって、玄関の前に置いた。ありがとうのハグもできない。
「よかったら、あなたのお店の画材がどんな風に使われているか見ていきませんか?」
ドアを大きく開けて誘うと、疲れた体を引きずるように、お姉さんはアトリエへ足を踏み入れた。その目がはっと見開かれ、ため息のような声が漏れる。
「この2メートルのコラージュ、あなたのお店の素材で作ったんですよ」「これも」「あっちも」
「今日のこの作品『音月の花束』もです!」
お姉さんは、ほつれた髪を直すことも忘れ、壁から壁へ、吸い込まれるように歩き回った。そして、突然声をたてて笑い出した。
「なんて楽しいの!わぁ〜って、こっちに向かって飛び出してくる」「なんなの、この一帯!」
さっきまで、疲労の色に包まれていた横顔が、ぱっと明るくなった。私は自分の作品を見てもらいたかったんじゃない。
「あなたの売っているものが、価値あるもの」
であることを、言葉でなく、体感で伝えたかった。ありがとうの代わりに。夢や元気を与える仕事に携わっているんだってことを。
「あなたの絵の具から、こんなものが生まれたよ」
それを、直に見てほしかった。体はくたくたでも、いつもの笑顔がお姉さんに戻って、本当にうれしかった。
「音月(おとづき)の花束」
地中海に浮かぶ月は
ピアノの音色に恋してる。
メロディを花束にして
セレナーデを作ろう。