手続き問題・17

【一日一作プロジェクト】2022年の作品群を紹介中。「手続き問題・17」。「輸出入許可証」は手に入れたものの「衛生証明書」の発行が

「事実上、不可能」

信じられないことに商業用の鳥ならOKだが、ココのようなペットの鳥には使えない。スペイン政府は「別の書式が必要」「現在新しい書式を作っています」と言うが、ただ作りゃいいってもんじゃない。

「スペイン政府がペット用の新しい書式を作り」「日本政府に提出」「検討」「話合い」「決定」「新・衛生証明書の実施」

と、その道は果てしない。なんせスペイン政府と日本政府による「二国間協議」で決定されることなので、一般人の私が

「今の進捗状況を教えてください」

と頼んだところで完全スルー。動物輸出入業者と打合せをするも、これは「数ヶ月から半年かかる」「いったんスペイン作戦は休止に」という結論に。がっくりしてベッドに横倒れ込み、天井を仰いでいると、涙が溢れてきた。

「ココ、だめかもしれない。相手が政府では。それもスペインと日本2つって」「ぷぷぷっ」

いつものようにホウキの柄に乗って、ごきげんなココ。私たちは家族。ただ「一緒にいたい」。それだけのことが、なんて難しいんだろう。Aプランから始まり、B、C、D、E・・・全てを却下され、さすがにもうできることはなさそうに見えた。

「これまでは努力すればできた。でも、人生にはどんなに努力しても、命をかけてもダメなことがあるのかも」

信じたくはないが、私は受け入れ始めていた。「仕方ない」と。だって、他にどうすれば?私は一般市民で、直接答えてもらえる立場ではない。私が政治家だったら。その瞬間、はっとする。

「直接答えてもらえる立場の人に頼んだらいいのでは?」

公には公。私には答えなくても、公が相手なら答えないわけにはいかないだろう。スペイン政府と日本政府、その間に位置する機関。それは、

「日本大使館」

マドリードにある大使館には、私も行ったことがある。ダメ元でお願いしてみよう。再びベッドから立ち上がり、スマホ片手に作業に向かう。

これまで私たちがトライしたことの全て。問題。現状を、時系列で箇条書きにしてまとめる。まずは、読んでもらえること。興味を持ってもらえること。そしてできるならば、

「心を動かしてもらえること」

泣きつくのではなく、私とココが命をかけているこのプロジェクトに手を貸してもらえないか。ここまで自力で解決してきたけれど、これ以上私1人では闘えない。相手にさえしてもらえない。でも、日本大使館ならきっと!

「日本大使館の立場から、スペイン政府と日本政府に現在の進捗状況を確認してもらえないか」

ストレートにお願いをする。現状を理解やすいよう、これまで関わったスペイン&日本政府各機関の回答をスクショして貼りつける。ココと私の写真も。都合のいい時間を教えてもらえれば電話をします、マドリードへ行きます、と添えて。正直、

「これは日本大使館の仕事ではない」

と言われて当然。だと思う。断られてあたりまえ。でも、私にはもう頼るところがない。藁をもすがる思いで、最後の望みをかけて。メールを送信した瞬間、涙があふれてデスクに突っ伏してしまった。

「ひゅ〜いっ」

ココが、電話の音に反応する。鼻水をすすり、涙を手の甲でぬぐって電話に出ると、聞き慣れない女性の声が。

「ももさんですか?こちら日本大使館です」

信じられないことに、メールを読んですぐに折り返し電話をしてくれたのだった。スペインに住んでいると日本人でもだんだんスペイン人化していくけれど、まさにそんな感じの気さくさと温もりを感じさせる声だった。

「いくつか確認したい点があるのですがいいですか?」

私の話をうなずきながら聞いてくれ、メモしてくれる。それだけで、なんて人は元気をもらえることだろう。いつのまにか涙も乾き、電話の向こうのまだ見ぬ女性に私は笑いかけていた。

「わかりました。スペイン政府と日本政府に現状を確認してみます。大丈夫です」

迷いなく言い切る口調、少し笑いを含んだ温かな声が、スペイン的だった。私たちをつなぐスペインの乾いた風、太陽。この地のおおらかさ。そして、送られてきた確認メールの最後には、

「ココちゃん、かわいいです。なんとかしてあげたいです」

と、ひとこと添えられていた。その瞬間、大粒の涙が一気に溢れ出た。私たちのことを「なんとかしたい」と思っている人が、この世の中にいる。

顔も知らない、会ったこともない人が、動こうとしてくれている。さっきまでひとりぼっちだと思っていたのに。私たちのことを見守ってくれる人が、今はいる。

この先どうなるのか。扉はどこにあるのか。まだわからない。けれど、こんな絶望の中にも、希望は、心が震えるような歓びは、あるのだった。(つづく)

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