手続き問題18・命の炎

【一日一作プロジェクト】「命の炎」を作った。「手続き問題・18」。日本大使館から連絡を待つ間、すでに暦は9月に。4月から始めた「手続き問題」も、

「はや半年」

春が過ぎ、夏が行き、秋を迎えようとしている。Aプランから始まり、次々とノーを突きつけられ、私はかつてない長い闘いの中にいた。9月となり、朝夕の風に涼しさが混じり始めると、

「ぞっとする恐ろしさが」

襲ってくる。私の心と体に刻まれた、9年前の「9月の記憶」。マラガの9月は、個人的には1番美しいと思う。あわただしい観光客が去り、フェリア(夏祭り)が終わり、町も人もルーティンを取り戻し、心機一転。新学期が始まり、

「これから新しく次のステージが始まる」

躍動感にあふれている。そんな、大好きな9月が、9年前、私からベラを奪った。潜在意識の奥に刻まれた「喪失の記憶」。あの時、担当医師より「ベラに秋はない」と告げられてから、私は

「永遠の夏の中に」

住んでいる。このまま時が止まればいい、と強く願うあまり。そして、また。9月が来る。喪失の季節が。別れにおびえ、その不安を打ち消すように、ぎゅっとココを抱きしめる。

「また奪おうというのか」

9月は。私から。今度はココを。どうか、くり返さないでくれ。愛する者たちを連れていかないで。祈るような気持ちで、返事を待つ。そして、9月中旬。ついに日本大使館から返事が届く。

「スペイン政府と日本政府に確認しました。衛生証明書の新しい書式について、すでに2国間協議中です」「ただ今後の予定は全くわからず、通常数ヶ月はかかります」「新しい書式(文書)が決まるまでできることはありません」「残念ですが、待つことしか・・・」

わかっていた。けれど、どこか期待していた。何か突破口があるのではないか、と。スマホを置いて目を閉じる。終わった。もう、できることは何もない。全ては暗礁に乗り上げた。扉は、開かれなかった。

「私の中から全ての希望が出ていく」

のを、ただ感じていた。希望が全て絶望に入れ替わるまで。ゆっくりと。私を隅々まで痛めつけながら。そして、絶望が希望にとって代わると、不思議な平穏が私の中に広がった。

「今後も進展があり次第、ご連絡します」「何かできることがあったら、遠慮なく言ってください」「1日も早く書式が決定しますように」

まだ見ぬ女性の、温かな言葉を胸に。各政府に確認を取ってくださったことに感謝。ハビ吉のマンションも、2週間後には出て行かねばならない。ココと住めるマンションも見つからず、

「もも、もう自分を解放してあげる時だよ」

クリスティーナが、私の肩を抱きしめる。これまで、何度も打合せに参加し、あちこち車を出してくれた。女友達の友情に感謝。

「ももは、誰よりもやった。誰にもできないことをやったんだ」「それでも進めないなら、解決はここにはない」「あきらめるんじゃない。いったんストップ。流れが変わる時まで」

「待つことを、ももは今学ばされてるんだよ」

進むことでなく、立ち止まることを?家に帰って、声を上げて泣いた。こんな終わりを、誰が想像しただろう。心配してココが寄ってくる。その温かい体を両手で抱きしめていると、涙で羽がぐっしょりと濡れた。

「ひゅ〜いっ」「ごめんね。お母さん、全力を尽くしたんだけど・・・」

私がココの前で声を上げて泣いたのは、この20年で3度しかない。ベラが亡くなった時。ココを養子縁組に出すと決めた時。そして、今。

「私は、決断をしなければならなかった」

次のステージに向けて。何ができるのか。何をするのか。A、B、C、D、E、Fプラン全て撃沈。それでも「あきらめる」という選択肢は最初からない。

「1年後、あの時はあんなに大変だった」

と、笑って話せる日がきっと来る。その光景を思い浮かべながら、これまでの資料を片付け始めた。第一章は、私の負け。でも、ここで終わるような、ももきみどりじゃない。

「ぷぷぷっ」「前進あるのみ!」

ココは、私を笑顔にする。笑いかける相手がいるかは、笑顔になる。絶望の中でも、命は美しく燃え上がる。私の中にある命の炎。それが私が頼りにしているものだった。誰かや、何かでなく。(明日に続く)

 

 

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