手続き問題20・喜びと悲しみの間

【一日一作プロジェクト】「喜びと悲しみの間」を作った。「手続き問題・20」。マンション退去まで2週間が迫り、私は大きな決断の前にいた。

「新しい書式が決定されるまで、私は、ココはどこにいるのか」

なにしろ決定までに、数ヶ月から半年。運が悪ければ1年。「ちょい待ち」できる時間ではない。なにより私自身が「期待しながら前傾姿勢で待つ」には、疲弊しきっていた。

「この戦は長丁場」

いったん仕切り直し。動物輸出入業者のMさん、動物病院のA先生と、今回の動きについて打合せ。運がよくても、新しい衛生証明書が決定されるのは、来年1月〜3月。それまでできることは何もない。

「日本に一時帰国しよう」

高齢の父も心配だし。年末と正月はそばにいてあげたい。「ココを預かってあげるよ」と申し出てくれた友人はいたのだけど、今後のことを考えて動物病院のA先生に任せることに。

「担当医師の管理のもと、クリニックに隔離されていた」

という事実は、書類のひとつとして提示することができる。手続き問題では、書類がモノを言う。個人宅では「どんな環境下にいたかわからない」「他の動物と接触があったかも」「衛生面に不安」とか、何を言い出されるかわからない。

「もも、いつでもココを連れておいで」

ドクターAは、これまでずっと私たちの手助けをしてくれた。マイクロチップに始まり、スペインのドキュメント、健康診断書・・・ココと私が一緒にいられるために、あらゆることに手を貸してくれた。

「20歳以上のヨウムで、こんなに羽がきれいで完璧なのは見たことがない」「健康優良児だね」「ココは強い。心と体も」「大切に育てられたんだね」

いたずらをしても、難題を持ち込んでも、大笑いしてスルーしてくれるおおらかさに感謝。その温かな笑顔に何度も支えられてきた。打合せのためクリニックを訪れると、ココのゲージが用意されていた。

「今日、連れてくるかと思ったのに〜」

って、うれしそう(笑)。私たちは、どこに行っても拒否され、受け入れられず、邪魔者扱いだった。この世界に「私たちの居場所はない」とさえ、感じるほどに。でも、私たちを待ってくれる人がいる。それだけで、私は勇気に包まれた。

「ココがいつも食べるもの、それからおもちゃをたくさん用意して」「冷暖房完備だから、冬も寒くないよ〜」

なんて広々としたゲージ。これなら自由に飛び回れる。毎日、先生にも話しかけてもらえる。土日もアシスタントの女の子がみてくれるとのこと。ほっとした瞬間、言いようのない悲しみが襲ってきた。

「また、ココを手放すのか」

一度ならず、ニ度までも。ココが命をかけて「ノー」を貫き、私の元に戻ってきたというのに。希望と絶望、喜びと悲しみの間を、毎日何度も行き来する。今の私にできるのは、

「ココがクリニックで安心して過ごせるよう」

全力を尽くすこと。帰り道、おもちゃを作るための素材を山のように買い込んだ。私は一緒にいてあげられない。せめて、おもちゃを通して、

「お母さんは、あなたのそばにいるよ」

と、伝えてあげたかった。(つづく)

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