【一日一作プロジェクト】「みみよよ」を紹介中。「手続き問題・26」。ココを手離し、マンションへ帰る。
「私を待つ者のいない、空っぽの部屋へ」
物音ひとつ、しない。さっきまで、ココが遊んでいた「引き出し」をゴミ捨て場へ運ぶ。胸が締めつけられるような「終わり」の現実感。それをふり払うように、
「部屋の掃除を始める」
悲しみに打ちひしがれているひまはない。次は私のマンション退去。日本帰国が迫っているのだ。荷物を片付け、何度もゴミ捨て場へ足を運び、
「部屋を最初の状態に戻す」
仮住まいとはいえ、半年も住むとそれなりに物が増える。ゆずるもの、捨てるもの、飛行機に乗せるもの。その選別を一瞬で行い、荷物をまとめる。
「手に持てるだけが、自分の荷物」
流浪の民の宿命。今度、いつか定住できたら(日本でもスペインでも)、その歓びと感謝で、なんでもできそうな気がする。
全ての書類を、動物輸出入業者のMさんに手渡し、これからはスペインと日本の両方で「手続き問題」を進めていくことに。クリニックのA先生ともタッグを組んで。
「最強チームやん」
いいところを見よう。ビジネスパートナーがいてくれる心強さ。安心感。スペインに拠点がある、インフラがある、心から信頼できる仲間がいる。その手に全てを任せて、私は日本側からアプローチ。最高の協力体制。
「闘い続けるために日本へ帰る」
これは失意の帰国ではない。と、自分に言い聞かせる。だからこそ元気でいよう。食べて寝て笑って、免疫力アップ。なにより日本には最強のインフラ、
「実家と父」
が待っている。心ゆくまで羽を休められる場所があることに感謝。父が元気でいてくれることに。今、手にしているものを大切に。前進あるのみ。
2023年10月。マラガからフィンランドへ。ヘルシンキの空港ラウンジで、灰色の空を眺める。まるで、今の私の心のような。
「ココは、淋しがっていないかな」
罪悪感、無力感。喪失感。官僚制度に対する怒り。その壁は、あまりに高かった。力尽きて、深い海の底に落ちていくような。無重力感。今は、ただ落ちていこう。今の私には、
「絶望さえスイートホーム」
慣れ親しんだ、よく知る場所なのだ。私は絶望の腕に身を投げ、その抱擁に身を任せる。今の私にぴったりと寄り添い、抱きしめ、そばにいてくれるのは、
「絶望。おまえなのだ」
不思議なことに、その腕は温かかった。絶望をゆりかごに。私は眠る。そして。目が覚め、日本の景色が眼下に見え始めると、絶望は言った。闇のマントをひるがえしながら。
「友よ、また会おう」
次の手続き問題が始まるまで。私は、10月の美しい日本に降り立つ。半年に渡る戦いで、目に見えない傷でボロボロだったけれど。
「生き抜けられれば、それでよし」
今は亡き、友人の口ぐせを思い出す。その時、私はまだ知らなかった。やがて始まる「冬の陣」は、私たちの想像をはるかに越えるハードルを、次々と突きつけてくることを。(つづく)