【一日一作プロジェクト】「立体アートパーツ」を制作中。「手続き問題・40」。カタール空港からの、2回目の電話は日本語だった。
「助けてください!お願いします」
懇願する私に「オウム君は元気なので、まず安心してください」と、日本人女性職員の方がひと息つかせてくれる。さらに、新たな解決法が見つかるまで、
「こちらで何日でもお預かりします」「食事や水を与えるスタッフもおります」「適温に保たれた保護施設の方へすでにオウム君を移動しました」
しばらくして、ココの写真が送られてきた。暗くてぼんやりした写真だけど、ちゃんとケージの中で、こちらを見つめている。目つきもしっかり。ひとまず、ほっ。
「搭乗拒否って本当ですか?」「はい。JAL便には動物は乗せられないとのことです」
だったらなぜ、チケットを買えたんだろう?オウムを貨物として乗せることは了解していたのではないのか?そのためにあの高額なチケット代を支払ったのでは?聞きたいことはたくさんあったけれど、まずはココだ。
「いったいどうしたら、オウムを日本に送ることができるんですか?」
女性は落ち着いた声で「JAL便をあきらめる」よう、さくっと言い放つ。「その代わり」と、すでに用意されていたらしい代案をはっきりと告げる。
「書類に問題はないので、鳥を乗せてくれるエアーに振り替えるのが1番早いです」「鳥を運べるエアーがあるんですね?」
「カタール航空なら、日本まで鳥を運ぶことができます」「じゃあ、カタール航空のチケットを買います!」
「ただ、羽田空港に乗り入れていないので、成田空港着になります。大丈夫ですか?」「はい。成田空港へ迎えに行きます」「いや、そういう意味ではなく。成田空港の動物検疫所から『入国許可』をもらっていますか?」「はっ?」
いや。羽田空港着の予定だったんだから。持っているわけがない。全ての書類は、羽田空港の動物検疫所と行って、すでに完了している。
「では、まず成田空港の動物検疫所へ連絡して『入国許可』をもらってください。それがないと、オウムを飛行機には乗せられません」
おいおいおい。めまぐるしく変わる私たちの状況。さっきまで「カタールに行かねば」と鼻の穴をふくらませていたのに。今度は成田空港の動物検疫所へ「入国許可」の申請。それも自力で。
「まずい。もうすぐオフィスが閉まる!」
夜になると閉庁してしまう。息をつくひまもなく、あわててメールを送る。さらに電話をかけ、ここまでのいきさつを説明する。
「搭乗拒否に遭い、便の変更を余儀なくされていること。大至急、成田空港の『入国許可』が必要なこと」
不幸中のさいわいは、成田空港の動物検疫所とはこれまでメールのやりとりを500回くらい行っている。2年前のマンション強制退去時から、今日に至るまで「ココを日本へ送る」べく、質問メールをし続けてきた。毎週、毎日。
「スペインのうるさいおばさん」
として、知れ渡っているにちがいない。と同時に、私たちの2年間に渡る努力や苦労、不屈の精神も、よくご存知のはず。すると。なんと。信じられないことに、そのわずか数十分後に返事が届いた。
「成田空港への入国を許可します」
ええっ。そんなに早く!!!聞けば、羽田空港の動物検疫所と話し合い、書類やデータが共有され、ほぼ即断で許可が出されたとのこと。
「ふりかえ便が決まったら教えてください。書類を作る必要があります」「あ、あ、ありがとうございます!」
感謝(涙涙涙)。ここまでの500通は、無駄ではなかった。思わず拳を突き上げて立ち上がる。どれだけ「ノー」と言われても、最後が「イエス」ならそれでよし。すぐにカタール空港へ連絡を入れる。
「成田空港の入国許可が取れました!ふりかえ便の手配をお願いします」「わかりました。大至急手配します」
これで、ココは飛行機に乗れる。日本に来られるのだ。JAL便がカタール航空便に。羽田空港着が成田空港着に。土壇場での大変更はあったけれど、多くの人がココのために動いてくださっている。
「衛生証明書の有効期限が切れる前に、日本入国できますように」
両手を合わせて祈る。ただ祈るしかない。全ては時間との闘いなのだ。(明日に続く)