手続き問題・42

【一日一作プロジェクト】「中画」を制作中。「手続き問題・42」。ついに成田空港の動物検疫所へ。最後の難関。難攻不落の城へ乗り込む。

「お世話になります。ももきみどりです。オウムを受け取りに来ました」

全ての書類をカウンターに提出。スペインと日本の両国で、命がけでかき集めた書類たち。たかが紙切れ。されど、ここに私たちの全てがつまっている。

「希望、願い、祈り、涙、怒り、絶望」

このためだけに生きた、2年間だった。全てを脇に置いて。これを解決しなければ、自分の人生を再スタートできない。そんな覚悟でのぞんだ。職員の若い男性が、全ての書類をひとつひとつ確認。まさに気持ちは、

「最後の審判」

天国か地獄か。最後の言葉が告げられるのを、ひたすら待つ。15分ほどして、上司と思われる方がのそりと奥から姿を現した。全ての書類を手に。

「確認作業が終了しました。全てOKです。ここまでおつかれさまでした。こちらの手続きはこれで終了となります」

そう言われても、すぐに喜べないほど私は憔悴し、何より身構えていた。あまりに「ノー」と言われ続けたために。どうせまたきっと「ノー」がくる。まるで、

「何十回度とぶたれ続けた獣のように」

私は身構え、体を固くしていた。無意識に。痛みを受け止めるために。「こん棒が頭上から振り下ろされる」のを予測して。しかし。それは起こらなかった。今、私の前に開かれた扉から、柔らかな光が差し込んでくる。

「きみどりさん、やりましたね!おつかれさまでした。ついにこの日を迎えることができましたね」

みなさんの笑顔に、はっと我に帰る。私たちは、ついに自由を勝ち取ったのだ。最後の最後は「イエス」で。何度も頭を下げ、お礼を伝えて動物検疫所を後にする。これからまだ、

「税関へ行って、最後の手続きが」

待っている。すでに午後2時過ぎ。税関の建物へ着くも、窓口をあっちこっちとたらい回しにされ、やっとのことで担当者に行き着く。なんとか無事手続きが完了。

「全ての書類を持って、ココの待つ保管施設へ」

ふりだしに戻る。ここで再び手続き。もうふらふらだったが、一刻も早くココに会いたい。「もう大丈夫だよ」と安心させてあげたい。ついに最後の手続きが終わり、ココの保管室へ案内される。ケージに近寄り、そっとカーテンを開ける。

「ココ、よくがんばったね」

数秒、ぽかんとしていたココが、はっとして突如おたけびを上げる。

「ひゅいーーーーーっ!!!」「もう大丈夫だよ。おうちに帰ろう」「キィーーーーーッ」

さっきまでおとなしくしていたココが、ケージから出ようと大暴れする。あわててケージの鍵を開け、ココを抱きしめる。そして、キスの嵐。

「仲よしさんだ〜」

職員の女性が、うれしそうに笑う。私もつられて。やっと心から笑うことができた。しばらくココと遊んだ後は、移動用ケージへ。ここからまだ、豊橋までの長旅が待っている。

「ココ、おうちへ帰ろう」「ぷぷぷっ」

すっかり安心しきった表情で、移動用ケージにおさまるココ。外が見えないよう、さらに袋に入れて持ち運ぶ。まずは特別区から出なくては。さくっと手続きをすませ、柵の外へ脱出。成田空港まで歩いて15分。さらに、成田エクスプレスで東京へ。

「大人1人、マスコット1枚」

2人分の切符を買う。行きは1人で帰りは2人。なんて幸せな旅だろう。列車に乗ると、ココが眠り始めた。私もほっとして睡魔が襲ってきたけれど、家に着くまでは気が抜けない。

さらに、新幹線で東京から豊橋へ。ずっと眠っていたココが、静岡辺りで目を覚ます。「ひゅいっ」「ぷぷっ」と声を上げる始めと、隣のお兄さんが、怪訝な表示で辺りを見回す。

「すみません、オウムがここにいるんです」「えーっ、そうなんすか。いやぁ、いいですよ」

無事に豊橋に到着。袋の中から、ココが雄叫びを上げている。もうすぐ出られるから。あと少しだからがんばれ〜。駅で待っていた父が、私たちの姿を見つけるや、

「ココちゃん、遠い所からよく来たね!お母さんもおつかれさま」

ここまでくればもう安心。姿の見えない父に、ココは「ひゅーいっ」と元気な声で応えている。あと少し。早くケージから出してあげたい。と同時に、私の心身の疲労度はマックスに達していた。(明日の最終回に続く)。

 

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