べラの腹話術&くつ下人形

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ピアノ教室のあいまに必死で
日本上陸の準備をしていたら
べラが突然
「腹話術をしたい!」
と言い出した。
それも、ニッポンで。

「ちょっと、でも、人形いるよ」
「くつ下で、作って!」

もの言いは静かだが
固い決意が感じられる。
わたしは「この忙しいのに!」
という言葉を飲み込んで
くつ下人形をさっそく
作ってみた。
「どう?」
「・・・・・かわいい」

いちおうお気には召したよう。
さっそく右手にはめると
家の中を歩き出した。
「ほら、これはね・・・」
「あれを見てごらん」
などと、くつ下人形に
話しかけている。
その目がいたって真剣なので
これは本当にニッポンに連れて
行くかも、と思えてきた。

新しい家族の一員となった
くつ下人形は、わたしの茶色い
ぼろタイツで作られたのだが
人形として生まれ変わった
ところを見ると急に
愛しく思えてくる。
ああ、捨てないでよかった。

茶色いボディから
「ココちゃん」と命名。
ココナッツの精、らしい。

「えっ、なになに?」
ココちゃんと意思の疎通が
あるらしい。
「のどが渇いた、って。
いっしょにマテ茶飲もうね!」
と、テラスへ。

「そんな暇があったら
荷造り手伝ってよ!」
と言いたいが
手伝ってもらわない方が早い
ので、ま、いーか。
「ココちゃん。いっしょに
 ニッポンに行くんだよ!
 飛行機に乗って」

「腹話術って、何語でやるの?」
「ももが日本語に訳してー」
「それじゃ、腹話術になんないよ。
 ポイントは口なんだから」
「じゃ、日本語でやる!」
「ほんと?」
「こんにちは、ココですっ」
「・・・・・・・」

日本語もおぼろだというのに
よく腹話術をやる気になるな。

テラスでマテ茶を
飲みながらくつろぐ二人。
すると突然、日本語で
「おさんぽー!」
と言い出した。
「えっ、お散歩行くの?」
「はーい」

で、近くの公園へ。
「花が見たいよねー」
「鉄棒やる?」
「おっと犬、危ない危ない」

でも、近所の人たちに会うと
さっと、右手を背中に回して
人形をかくす。
「どうしたの?」
「ココちゃんは、恥ずかしがり」

帰り道、バナナに食らいつく
ココちゃんを見ながら
「蛇姫みたいな顔だな」
と、思った。

 

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