先日、友人のカルロスが
「アメリカのNASAが、近いうちに『太陽嵐』が来る、と発表したらしい」
と、青い顔をして言ってきた。
カルロスの調べたところによると
「太陽嵐は、今までに地球上で何度も起きていて
1859年には、地球規模で自然災害が発生した」
らしい。
今回の太陽嵐の一番の問題は
「電気系統の破壊」や「インターネットの使用不可」など
完全に日常生活が何十時間、あるいは何日、
場合によっては何か月と、ストップする状態になるかもしれない
というのだから、おそろしい話である。
「そんな・・・いきなり、ねぇ」
新年そうそう、いきなり眉間にしわが寄ってしまうではないか。
「で、どうすればいいの?」
「まずは、非常時のために『非常用リュック』を用意しておこう。
懐中電灯とか、食料、水とか必要最低限のものを入れて逃げる準備だね」
「・・・で?」
「電気やパソコンが使えなくなったら、これは太陽嵐が来た!と思って
すぐさま都会を離れ、田舎の友人の家に逃げる」
「ははあ~」
あきれながらも、パソコンで調べてみると
確かに「太陽嵐」は存在し、1859年には大被害を出していた。
「とりあえず、『非常用リュック』の準備でもする?」
べラに尋ねると、もともとキャンプ好きなので
「太陽嵐じゃなくても、火災や地震が来たときのためにもいいよね」
新年はじまってそうそう、非常用リュックづくり。
「懐中電灯、ろうそく、マッチ、ナイフ、ラジオ、ハサミ、薬、傘、
ペンと紙、トイレットぺーパー、手袋、帽子、水、クッキー、チョコレート、
石けん、歯ブラシ・・・」
なんだか、旅行に行くみたい。
「車は使えないとすると、移動は自転車か徒歩だよね」
「じゃ、自転車か徒歩で持っていける量が、限度ってこと?」
「基本的にリュック一つ、と考えた方がいいね」
なんだか、大変なことになってきた。
いざ逃げるとなると、持っていけるものはほんのわずかだ。
「で、あれはどうするの?」
イスにとまって羽そうじをしているオウムを、べラがちらりと横目で眺める。
「持っていくにきまってるじゃん!」
「どうやって?」
「・・・・・・・」
そうであった。
オウムの住まいである鳥かごは、車の後部座席にも入らぬような大型。
持って行くには、移動用の小さな鳥かごがいる。
「今度、のみの市に行ったときに探してみる!」
「そうだね、背おえるようにベルトかバンドをつけておいたほうがいい」
なんだか、汗びっしょりになってきた。
新年そうそう、太陽嵐は本当に来るのか。
それよりも、べラの表情がどことなく、うれしそうなのが気になる。
キャンプ好き、アウトドア野郎のべラにとって
こうした万が一のための準備は、不思議な高揚をおぼえるものなのにちがいない。
「僕はリュックとバイオリンを、持って行く」
「私は、リュックとオウムの鳥かご」
なんだか、簡単なものだ。
人生は、いざとなったら、命だけでいいのである。
それを教えたくて、友人カルロスは、やってきた。
新年の挨拶として。
そんな気がして、ならない。