昨年、思いがけない縁があって
「大人のヨーロッパ街歩き」というテレビ番組の
撮影のお手伝いをすることになりました。
今日はその二日間に渡る、ロケの様子を紹介します。
一日目。
朝9時、集合。早い。さすがサムライ撮影隊。
機材を肩に抱え、マラガのへそ、ラリオス通りに姿を現す。
「よろしくお願いしまーす!」
と、挨拶は1分で、さっそく撮影開始。
マラガなら、まず挨拶&打合せで、コーヒーだろうなぁ。
さて、今回の撮影隊は4人。
プロデューサーの辰巳さん、カメラの鈴木さん
アシスタントのホジンさん、そして主役の高橋さん。
まず、高橋さんのあまりのお肌の美しさに
「ははあ~」
と、ため息。やはり外見というのは大切だ、と
今さらながら思うが、もう遅い。
「で、しみはどうするのっ」
という母の悲痛な声が、聞こえてくるようだ。
「では、マイクつけますね」
「ははあ~、お願いいたしまする」
されるがまま。
そして、言われるがまま。
歩き、振り返り、通り過ぎる。
ただ、歩くだけが重労働。
「ここで、通りの説明を一言、短めでお願いします」
一言と言われても
どんどん文章になっていってしまう。
あああぁ、早く切らねば。
「これが、マラガの胃袋、中央市場です」
たったそれだけなのであるが
これだってマラガの胃袋なのか、マラガ人の胃袋なのか
正しく話そうと思うと、わからなくなってくる。
これは後日談だが、マラガ市場でキノコを紹介するとき
キノコの「カサ」のことを
私は自信満々に、キノコの「頭」と言い切っていた、と
母が国際電話で、うなっていた。
そうであろう。
ピカソの生家に行ったときなど
「お棺(おかん)・・・いいんでしたっけ?」
と、カメラ前で尋ねる私に、高橋さんがさりげなく
「ひつぎ、ですよね」
「ああー、そうでした、ありがとうございます」
海岸通りの魚介類レストランでも
「イワシがほら、6・・・ぴき、でしたっけ?」
「6尾、ですかね」
これでは、日本語のまちがいを直すだけで
スタッフのみなさんも、大変である。
正しく話せただけでもう
「OK!」
が出そうである。
「そうだ、正しくしゃべろうとするから混乱するのだ。
楽しく、私らしく紹介すればいい。
テレビには、編集という機能がついているのだ!」
そう、技術でカバーしてもらえばいい。
今回の撮影スケジュールを組むとき、私はできるだけ
歩く距離が少ないよう、動線を考えて撮影アポを入れた。
しかし、いい加減なマラガのこと
「きっと、仰天させられることが待っているにちがいない」
と、撮影隊のみなさんには言わないが、ひそかに思っていた。
そしてそれは、起こったのである。
マラガの顔ともいえる「ピカソの生家」に
指定の時間通りに着いた私たちを待っていたのは
「撮影申請は、昨日になってますね」
という、無情な担当者の声であった。
「はああぁっ、昨日?今日ですよっ!
すぐにマラガ〇〇のTさんに電話で確認してください」
ふつうなら、ここで慌てふためいて
「日本から撮影の方が来ているんですけど、
どうしましょう~」
と、すぐさま確認の電話を入れるはずなのだが
さすが、マラガ人はちがう。
「撮影申請は、昨日のお昼12時です!」
と言ったきり、動こうとしないのである。
くらっとするが、倒れている暇はないので
「お願いですから、確認してください」
と、必死で頼み込む。
再三に渡り、撮影申請&確認メールを
してきたのに、何ということか。
結局、確認はしてもらえず、その日の担当者に
新たに撮影申請をし、撮影許可がおりたのだった。
「仕方ないですねぇ~」
とため息をつかれたが、つきたいのはこっちだ。
番組には、こんな裏話は出ないだろうが
「こういうところが、マラガなんです!」
と、声を大にして、言いたいものだ。
さて、その後、撮影は順調に進み、
お待ちかねの食事の時間となった。
食事といっても、撮影を兼ねているので
ゆったり休んでいるわけにはいかない。
そのときであった。
マラガ人のいい加減さとはまるで正反対の
撮影隊の、真摯な姿に出合ったのは!
おいしく撮るためなら、空腹もいとわない。
料理の皿を見つめる、真剣な目。
固く結ばれた口元。
これぞ、サムライニッポン。
「こういうものが、あったなぁ、日本には!」
ずっと忘れていたプロ魂。職人のこだわり。
撮影隊のみなさんは、きっとマラガを発見しに
来られたのだろうが
私は、ニッポンのすばらしい精神を再発見していた。
「これぞ、ニッポン!」
鼻の穴を膨らませて、ビールをぐいっと流し込んだ。
(明日につづく)