マラガ人のいい加減さに、あきれ果てた後の
サムライニッポン撮影隊の姿は
5月の風のごとく、爽やかであった。
「食事の撮影」というものを
二日間に渡って、そばで見させてもらったのだが
これが、実に大変なのである。
まず、主役の高橋さんと私が
「これは、マラガ名物の・・・です」
「おいしそう~、じゃいただいてみましょうか」
というシーンを撮ったあと、プロデューサーの辰巳さんが
「はい、OK!じゃ次、料理いきます」
と、今度は別のテーブルで、「料理だけ撮る」のである。
そのために、料理は同じものを2皿ずつ注文する。
そして、湯気があるものは、湯気のあるよう撮らねばならない。
今まで当たり前に見ていたテレビの料理シーンが
「ああぁ、こんな苦労があってのことなのだ~」
とわかり、なんだか急に愛しくなってくる。
何事も、黙々と働く人々によって
華々しい世界は支えられているのだ。
そして、やっとOKが出る頃には
すっかり冷えてしまった料理を
撮影隊のスタッフは食べるのである。
これを見ていたべラは、心底驚き
感嘆のうめき声をもらした。
「なんて、すごいんだ。これぞサムライの血。
サムライニッポン撮影隊だ!」
よっぽどうれしかったのだろう。
「魚介スープ、温めなおしてあげてください」
と、お店の人に頼んでいた。そして
「ああっ、うまいっすねー」
と、寡黙なカメラマンの鈴木さんがつぶやいたとき
べラは、本当にうれしくなったのだ。
「マラガ人なら、まず最初に熱々のを食べてから
もう一皿頼んで、撮影すりゃいいって思ってるよ」
無口な、しかしいい映像を撮りたいと、何度でも
カメラをのぞき、角度を変え、やり直すその姿が
職人らしくて、べラは大好きなのだった。
そして空腹の絶頂で、魚介類料理の皿を前にして
「みゃうう~っ」
と鳴く辰巳さんは、とてもお茶目な人だった。
「今の僕、港にいる捨て猫の気分です・・・」
それを訳すと、べラが大笑いして辰巳さんのことを
「ねこさん」
と、呼ぶようになってしまった。
上に立つ人が、ほどよく力が抜けていると
抜群に空気が和む。
辰巳さんはプロデューサーという立場でありながら
絶えず笑顔で、周りに接する。
指示が明確で、現場経験から生まれるすばやい判断力が
チームにスピード感を生む。
高橋さんはどこから見ても美しく
絵になる方だった。
これが、カメラの前に立って仕事をする人
というものなのだろう。
見られることに慣れる、というのは
なかなか大変そうだな、と思った。
行く先々で、私たちのような知らない人(スペシャリスト)と
いきなりする「ヨーロッパ街歩き」。
そこには、テレビには出ない苦労だって
きっとあるのにちがいない。
何しろ、素人相手なのだ。
プロと仕事をする時のようにはいかないだろう。
アシスタントのホジンさんは
いつも周りの人たちの居心地を考えて行動できる
心の優しい女性だった。
彼女がこのチームにいることで
どんなに空気が和んだだろう。
素直な人は、それだけで周りを幸せな気持ちにする。
わたしも撮影中、何度も元気をもらいましたよ、ホジンさん。
いつも話しかけてくれてありがとう。
笑顔の抜群な高橋さん、
職人肌の鈴木さん、
心優しいホジンさん、
そして、いい具合に力の抜けたお茶目な辰巳さん。
すばらしい撮影隊でした。
思ってもいない出会いでした。
これからも「大人のヨーロッパ街歩き」、応援しています。
忘れられない体験を、本当にありがとうございました。
撮影隊のみなさんは