明日はいよいよ、とくおばあちゃんを訪ねて岐阜県は中津川へ。ニチイケアセンターでお世話になっているので、お礼もかねて「ファミリーコンサート」をさせていただく予定。
なにしろ去年はさんざんだったので、今年は気合が入る。母はハーモニカを忘れ、私が弾くはずの電子ピアノはアダプターがなく音が出ず。唯一、まともに演奏できたのがべラだけ。きみどり家は全滅であった。
というわけで、今年は気合がちがう。なんとしても失敗は許されない。
父は、「べロ出しゲーム」の用意&練習に余念がない。母は前夜、最後のリハーサルと家族を前に演奏曲を披露。「あれっ、ちょっと、ああー」曲が途中で何度も止まる。
「これでいいんだっけ?あれれっ」その様子を静かに見守っていたべラがそっと口を開く。「とみ子さん、その曲を明日、コンサートで弾くんですか?」
あまりのまちがいの多さに「前日でこれでは、当日どうなるか」本気で心配してくれるべラ。「大丈夫、ファミリーコンサートだからね」というのんきな父の言葉も、べラの耳には届かない。「もう少しまともに弾ける曲はないのか」真剣な顔で、母に詰め寄る。
「あーはっはっは」と、本人は大笑いだが
べラの眉間に刻まれたしわは、夕食時まで続いた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「後は、運を天に任せましょう!」
まだ納得していないべラだったが
「まぁ去年より、悪いコンサートになるのは不可能」
とつぶやき、母の顔をまっすぐ見つめると
「とみ子さん、今年は絶対にハーモニカ忘れないでくださいね」
と、静かに念を押した。
(10、につづく)