先日、べラがため息をつきながら
「ももはアーティストなんだから
もっと神秘的にならないとだめだよ!」
と、言ってきた。
「神秘的・・・」
その言葉で、まず思い浮かぶのは
「霧の摩周湖」
である。
さらに考えをめぐらせていると
頭に浮かんできたのは
「ネッシーの住むネス湖」
って、全部、湖じゃん。
「いかんいかん、人間を思い浮かべねば」
誰か人間が浮かんでこないかと
想像をめぐらしてみるが、まるで出てこない。
仕方なく、べラに尋ねてみる。
「神秘的な女って、たとえば誰?」
しばらく考えていたが
「たとえば、モニカ・ベルーチ、かな」
モニカ・ベルーチ。
いきなり。
「それは、ハードルが高すぎるって」
うぐぐーっとうめく私に、ベラが聞く。
「じゃ、ももは誰になりたいの?」
「うーん、今、この瞬間は、パポ・ルッカ!」
「男だよ、それは」
「うーん、うーん・・・」
「女で憧れた人とか、いないの?」
まったく思い浮かばないのに
自分でも愕然としながら
「小さい頃、あこがれた女性」を
なんとか思い出そうとしてみる。
「ああっ、そうだ。私、『鮎原こずえ』になりたかったんだ!」
「誰、それ?」
「『アタックno.1』のバレーボールのキャプテン」
「・・・・・・」
「ああっ、それから『朝宮サキ』にも憧れたなぁ~、かっこいいー!」
「誰、それ?」
「女の番長、スケバンでね・・・刑事なの」
「・・・・・」
どんどん、モニカ・ベルーチから離れていく。
いかんいかん。
神秘的に戻らねば。
神秘的ってことは、ミステリアスなわけだから・・・
「アルセーヌ・ルパンや、金田一幸助にもなりたかったなぁ。
ああ、ルパン三世も好きだった!」
ベラはあきれてもう
「誰、それ?」
とも、聞いてこない。
よくよく考えてみると
「神秘的」とは
「謎に包まれ、よくわからない感じ」
である。
摩周湖は、霧に包まれていたが。
「モニカ・ベルーチって、今思ったけど
ほとんど笑わないよね、あれがポイントなのかなぁ」
神秘の源泉は、そのあたりにあるのかも。
「僕は、ジュリア・ロバーツの大口の笑顔も好きだけどね」
だったら、その路線にしてほしい。
「ところで、ベラは私のどこがよかったの?出会ったとき」
「かわいかったから」
「ほんと?」
「うん、犬みたいに」
「・・・・・・」
神秘的な女は、無理かもしれないが
「神秘的な犬」なら、いけそうな気がする。