ベラのこと「旅の思い出・ハンガリー編」

CIMG2096 ベラとはハンガリーにも
行きました。確か8泊の旅。
マラガから飛行機でウィーンへ。
そこからハンガリーまでは
鉄道で。壮大な旅じゃ。

いっしょに旅してくれたのは
ベラの妹さん夫婦で
わざわざウルグアイから
マラガまで来てくれ
それからハンガリーへ。

いちおうベラと
妹さんのトウッシーが
ハンガリー語ができるので
「あーやれやれ」
と安心していたら・・・

語学ができるのと
地図が読めるのとは
ちがうのだった。
結局、まったくハンガリー語の
できない私に向かって
「ねぇ、この向こうには
何があるの?」
「こっちに行くと〇〇に
行けるんだっけ?」
「何番のバスに乗るの?」

私だって初めて来たんだから
知らないって。

さて、今回のハンガリーの
旅の目的は2つ。
1、毎晩、ジプシー音楽の
 生演奏を聴くこと。
2.まだ見ぬいとこを訪ねて
  三千里。
  とまではいかずとも
  ミシュコルツという町まで
  電車に揺られて行き
  「紙に書かれた住所」を頼りに
  初対面を果たす!
  という計画。

しかし、ミシュコルツって、どこ?
土地勘もなく
紙に書かれた住所を頼り、って
気分はすっかり
お母さんを訪ねるマルコ。
少なくとも気分は三千里。
言葉はまったくわからないし。

ハンガリー語は発音が
非常に難しく
小さい時から聞いていないと
ほぼ音の聞き分けが不可能。
夢のようなフレーズ(笑)

挨拶だって
「ホッジュ・ワッジ?(お元気ですか)」
「ノジョン・ヨー・クシュナム(元気です、ありがとう)」
って、おぼえるの
すごく大変だったのだ。
親戚に会うわけだから。いちおう。

で、結果から言うと
本当にいとこ夫妻と対面を果たし
感動の抱擁~。であった。

初対面で自然に抱き合える
習慣って、すばらしい。
日本だと大切な友人でも
なかなか触れないのに(笑)

ブダペストでも毎晩
ジプシー音楽のライブを聴いていたが
一番、よかったのは
このミシュコルツのミュージシャンだった。

観光客など
ほとんど来ないレストラン。
ブダペストのレストランとは
まるで対照的。
この日もお客さんは地元っ子だけ。

バイオリンの音色にあわせて
みんな歌う、歌う。
それも大声で。
うっとりと。
カラオケとちがうところは
歌われる曲のほとんどが
「ハンガリー民謡である」
というところである。

お酒を飲み
心が、思い出が温まってくると
お客さんが次々とリクエストをかける。
テーブルにまで
バイオリニストが来て
弾いてくれるなんて
私には初めての体験だった。
チップをねだるのでも
営業として各テーブルを
仕方なく回っているのでもない。
話があえばバイオリン手に
10分でもお客さんと
おしゃべりをしている。

お客さんも常連なのだろう。
ミュージシャンたちは
あっちでもこっちでも
お酒をごちそうされていた。

「私もリクエストしたいっ」
「もも、食事の後ね」
ベラは眉にしわを寄せたが
もう、食事どころではないではないか。
ねぇ。

私が我慢しきれず手をあげて
「チャルダーッシュ!」
と、お願いすると
50歳くらいのバイオリニストは
ふらふらと私たちのテーブルに
近づいて来てくれた。
その瞬間
バイオリニストの全身から
アルコールの匂いが
もわっと立ちのぼった。

そのことに、私は深く感動した。
酔っ払いながら弾く、ということ。
弾けるということ。
それが許される状況。
実際これはすごく難しい。
まずスペインのホテルやレストランでは
絶対に許されない。

それが許されるのは
ここが地元っ子の集まる
レストランであり
音楽が人々のものであり
生活の一部として
しっかりと根づいているからだ。

音楽は
ここでは呼吸をすること
食べること、笑うこと、泣くことと
同じくらい自然なこと。

そしてミュージシャンは
音楽を楽しむ仲間。
だからレストランのオーナーも
何も言わないし
ミュージシャンも生き生きしている。
泥臭いが、生きている音楽。

商業的、営業的でない
バイオリンの音色。
ベラもきっと
同じ気持ちだった思う。

「クシュナム!ノジョン・ヨー」
と拍手かっさいした後
ベラはなんと立ち上がると
「ちょっと貸して」
と、バイオリンを手に
ジプシー音楽隊のメンバーと
演奏を始めたのだった。
いきなり。

驚いたのは
バイオリニストの方だった。
ベラは大好きな
ハンガリー民謡を弾いていた。
後になって
「両親の土地で
一度弾きたかった」
とうれしそうに言った。

初対面のいとこ夫妻も
仰天していた。
まさかこんな
飛び入りライブが
行われるなんて
誰が想像しただろう。

そして、さらにほかのお客さんまで
手拍子を始めたので
その日、レストランは
すごい盛り上がりとなった。
ミュージシャンたちとべラは
ずっと話をしていた。
ハンガリー語で。
スペイン語を話すときとは
ちがう顔をしていた。

チップを手渡しながら
私はもう一度
バイオリニストにお礼の握手をした。
よく見るとシーツに
お酒のしみが飛んでいる。
私のヒーローたちは
いつもこんな表情をして
突然、現れる。
無名のヒーロー。
でも、私を最高に幸せにする。

料理も温泉も建築も
すばらしかったが
私にはあの夜の
酒臭いバイオリニストと
ベラの飛び入りライブが
一番、心に残っている。

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