スペインは来たる12月20日(日)
待ちに待った4年に一度の
「総選挙」がやってくる。
これによって
国の首相、与党が決まるだけでなく
新党「ポデモス」が
どこまで票をのばすか、に
多くの国民は
熱い期待を抱いている。
この選挙戦を前に
先日、12月7日にテレビで
各党の代表が
ディベート&スピーチを行った。
この日、この時間、
多くのスペイン国民が
テレビの前で
釘付けになった、と思う。
それはここ数年の
PP党および支配層が生み出した
「作られたスペインの不況」によって
職を、家を、貯金を、平和を失い
さらには家族や老後、
健康までを失った
何万というスペイン国民の
怒りと希望が
今回の選挙に票となって
叩きつけられるであろうと
思われているからだ。
スペインの不況が
内から生み出されたもの。
つまり
国民の生活を保護、支援するための
政府が、悪の温床であったことを
国民は初めて身を持って
知らされた数年であった
と言ってもいい。
失業率26%はもはや
当たり前。
仕事がないから
ローン返済ができず
文字通り、通りに放りだされた人が
数万人。
「家から立ち退き命令」を下す
PP党および息のかかった大企業、
さらに警察や軍まで動かすやり方に
反対して
家の前で人間バリケートを作る
市民活動家が何千人と、生まれた。
その中の一人
リーダー的存在であった女性
「アダ・コラウ」が
今年の「バルセロナの市長選」で
ダントツの支持を得て
当選した、というのだから
笑ってしまう。
本人も当選インタビューの際
笑いながら答えていた。
「これまで公の建物には
入れてもらえませんでした。
ブラックリストに載っていたので。
ほら、アダ・コラウが来た!って」
「今は、市庁舎に入っても
何も言われません(笑)」
ついこのあいだまで
警官に押さえつけられていた
「要注意人物」が
一日にして
「市長」となる。
こんな変化を受け入れる
土壌をスペインは
持っているのだ。
ここ数年、次々と発覚した
桁はずれの汚職。
政治家のスキャンダル。
国民をだまし続け
甘い汁を吸い続けた
PP党と支配層(裕福層)の
やりたい放題に
国民の堪忍袋の緒が切れ
ついに国民が立ち上がった。
マドリッドで行われた
「15M」の決起集会。
お父さん、お母さん、先生、学生、子供
おじいちゃんおばあちゃん・・・
普通の人たちが真剣な眼差しで
政治転換を求める姿は
まだ記憶に新しい。
それ以来、スペイン中で
ほとんど毎日、毎週
デモが行われている。
その「15M」の中心人物が
パブロ・イグレシアスを始めとする
コンプルテンセ大学の教授や
知識階級である。
政治家ではない者たちが
政治に進出したことで
話題を呼んだ「ポデモス党」。
「経験もないくせに」
と批判は多いが
経験があっても汚職ばかりでは
意味がない。
だいたい今年の
「マドリッドの市長選」だって
PP党の古株「エスペランザ・アギエレ」を
さしおいて当選したのは
ポデモス他の支持を受けた無所属の
「マヌエラ・カルメナ」だった。
彼女の職業は
政治家でなく「裁判官」である。
それも汚職や不正と戦うことで
その道では有名な
女裁判官、なのだ。
さて、話を戻そう。
この日のディベートにも
パブロ・イグレシアスは
ノー・ネクタイでふらりと現れた。
いつもと変わらぬ
まるでコンプルテンセ大学で
教鞭をとっていたいた時と同じような
長めの髪を後ろで束ねて。
学者風の面持ちは
いまだに変わらない。
さて、この日の番組の
「トリ」となるのが
各政党のリーダーたちによる
「スピーチ」であった。
他の政党のリーダーが
「私たちは、こんな政策を・・・」
と訴える中
パブロ・イグレシアスは
静かに、しかし熱く口を開いた。
そのパブロ・イグレシアスの
ほんの一分あまりのスピーチに
心をわしづかみにされた国民は
けして少なくないだろう、と思う。
私なりに、訳してみたい。
前半に出てくる固有名詞や
スキャンダル名は
日本のみなさんには
「?」であると思う。
しかしスペインに住んでいる者にとっては
煮え湯を飲まされるような
怒りが再び湧き上って来る
事件の数々、なのである。
政治家および裕福層の
「私腹を肥やす汚いゲーム」に
巻き込まれた国民の
職や貯金を失い
定職も持てず
明日の保証がまるでない
国民の怒りを
パブロ・イグレシアスは
中学生でもわかる言葉で
代弁した。
「僕がお願いしたいのは
たった2つのことです。
一つ目は
No olviden(どうか忘れないでください)
「Tarjeta Black (ブラックカード)を!」
★上限のないカードを政治家&企業家などにプレゼント。
何千万という公費を湯水のように
旅行や高級車の購入、高級ホテルやレストラン、
パーティなどに使用していた事件。
No olviden(どうか忘れないでください)
「desahucio(強制立ち退き)を!」
★定職を失いローン返済不可能になった
国民への容赦のない強制立ち退き。
その方法たるや、警察や軍まで出動し
通達もなくいきなり夜中の3時に
ドアを壊して家の中へ侵入。
反対の市民活動家がデモできないように
というのが理由だが、人権は?
こうして、
パブロ・イグレシアスのリストは続く。
No olviden(どうか忘れないでください)
「 Gurtel 」
★政治家たちの桁ちがいの汚職スキャンダル事件)
「Luis sè fuerte」
★首相マリアノ・ラホイがルイス・バルセナスへ放った
とんでもない発言。話せば長いので。汚職スキャンダル。
「 estafa de las preferentes」
★銀行が何万という国民をだまし、年金を奪った詐欺事件。
「 las colas de sanidad(医療予算のすさまじいカット)」
「recortea en educación(教育予算の恐るべきカット)」
「Púnica」
「reforma laboral」・・・
それぞれについて説明は、ない。
が、国民は嫌というほど知っている。
身を持って。
そして、パブロ・イグレシアスは続ける。
「僕が、お願いしたい二つ目は・・・
ふうつの一生懸命に生活する人たちが
笑える暮らし、笑える社会を!」
朝6時に起きて、働きに行く人たち、
朝6時に起きて、働きに行く場所がない人たち、
15時間の安いパートをこなすお母さんたち・・・が
笑える社会を!
安い感傷的なスピーチでは、なかった。
うちにはテレビがないので
パソコンで見たのだが
訴えるのではなく、代弁したのだ。
多くのふつうのスペイン人の
望みを。願いを。
ただ淡々と。
12月20日の総選挙に
期待をしたい。