第25話 音楽と海のレストラン

電話攻撃が功を奏して私たちは
いくつかのレストランで演奏できるようになった。

その1 ロシア料理レストラン“ボリス”
超高級レストランでキャビアやウォッカが目もくらむような値段で置かれている。
3日間弾いて4日目に行ったら警察の手入れがあり潰れていた。
ロシア・マフィアの経営だったらしい。
「せめて3日分でも払ってよ!」
と叫ぶ私にベラ
「いや~弾いてる最中に他のマフィアが乗り込んできてパパパパってやられちゃうより
いいんじゃない?命拾いしたよね、僕たち」

その2 イタリア料理レストラン“ダニー”
格安ファミリー向けの半屋外テラスレストラン。
大人がゆっくり食事ができるよう、子供たちは隣接された庭で「放し飼い」にされている。
なぜかミニサッカーゴールがあり、2、3回は
「よっ!」
と頭を振って飛んでくるボールをよけて弾いていたが
4日目に
「バシッ!」
私の右手の上にゴールが決まり演奏は中止となった。

その3 フランス料理レストラン“エストゥディオ”
フランス人の若者3人による経営で3ヶ月の契約だったが
お客さんが日に日に少なくなっていった。料理も内装も抜群にいいのだが“場所”が悪かった。
高級レストランで車が停められない、というのは致命傷だ。
ある日、あまりの事態を見かねたベラが
「あの、音楽屋の僕が言うのもなんだけど
もうライブ演奏やめた方がいいんじゃない?」

親身になってアドバイスするベラであった。

するとまだ30才くらいのオーナーは、きりっとしてこう言った。
「実は一ヵ月後にレストランを閉めることはもう決まっている。
でも僕は音楽と海が好き。音楽と海のある人生を僕は選んだ。
だからここでも最後まで音楽は続ける。
お二人ともこのレストランで最後まで弾いてください。
音楽とともにレストランを引退させてやってください。お願いします」
「おお──っ!」
なんという心意気。
その貫かれたポリシーにくらくらしてベラなど涙を浮かべている。
「タイタニック号のミュージシャンって気がしてきた…」

最後の一ヶ月は、ほとんど彼ら3人のために弾き続けた。そして
「半額でいいよ。僕たちからのお餞別」
と肩を抱き合って別れた。
これからもう一度やり直すためにお金を貯め次はブラジルかフロリダに向かうという。
「音楽と海と生きていく!」
そう言い切る彼らの笑顔を思い出しながら新しいレストランがうまくいくことを祈って
お線香をあげそっと手を合わせた。

(第26話につづく)

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