マラガ人が週末出かける所といえばまずプラジャ、その次が、
カンポ(野原、田舎の意)だ。
年間晴天日270日以上というマラガでは雨の心配をする必要がほとんどない。
そのかわり、空気や大地も乾燥しきってカンポには森や林が全く見当たらない。
雨が降らず大地が“岩盤”なので大樹が育たないのだ。マラガのカンポに
生えているのはたいていオリーブかユーカリか松くらい。それも、ぽつん、ぽつんって。
それでもお弁当を持ってマラガ人は出かけていく。
家の中に、天気のいい日にじっとしているということができないのだ。
何が何でも、たとえ風邪をひいていようが足を骨折していようが包帯に松葉杖で出て行く。
あの“外に出たい!”という情熱、衝動はいったい何なのだろう。
マラガ人の老いも若きも病人までもを“外”へと衝き動かすあの力とはいったい。
さて
私たち、マラガ下町コミュニティの面々も例にもれずカンポへと出かける。
何しろ一年中開いていて無料(ここがポイント)。
というわけでお弁当、テーブル、椅子など持ってアンテケーラの山岳方面へ
山の清水(ミネラルウォーター)を探しに行ったり、林の広場に設置された卓球台に
ラケットとボール持参で出かけトーナメント戦をやったり
田舎の空気を吸いながら太極拳をやったり
(スペイン人だが太極拳30年という大先生がいる!)
松林のあるコイン方面にキノコ採りに出かけたり、とにかく催し物には事欠かない。
何しろお金を使えないので手を、体を、頭を使う。
お互い知っている、持っているものを提供しあえば結構楽しめる。
ある日、ベラと二人でカンポへ出かけた。
小川の近くでバーベキューをやろうとリュックを下ろしていると
「じゃあ、火をおこして」
って、そんなこと知らないよと言うと
「じゃあ、学生の時、何やってたの?」
「ハンドボールとかバドミントンとかテニスとか…」
「はっ?せめて弓道とか剣道じゃないの!?日本に居ながら」
その次のカンポ行きの日も、もちろんリュックにテント持参である。
そしてベラが持ってきたのは1mもある“弓”だった。
生まれてこの方、一度も引いたこともないのにいきなり
「的を外したら、自分で矢を拾いに行って来てもらうから」
そして、その次は、なんと“馬”だった。
「馬にも乗れないの!?」
って日本人を何だと思ってるんだ。
火がおこせ弓が撃て馬に乗れる女なんて。
「昔の日本女性はできたに違いない」
って、私は会社員をしてたんだから。
私は悟った。“アウトドア派”“ナチュラル志向”などという甘いものでなく、
ベラは正真正銘キャンプ野郎、筋金入りのサバイバル派だったのだ。
そんなプリミティーボ(原始的)なマラガ下町コミュニティの面々が絶賛した
日本の文化を伝えるドキュメンタリー番組があった。
そこでは三重県の“海女”が取り上げられていた。
「マラビジョーソ!(すばらしい)」
「日本女性はすごい!」言葉を失ってうなり声をあげる者までいる。
原始的な彼らにとって日本の“海女”は
まさしく理想の女性なのだった。
(第27話につづく)