第27話 恐るべし 名物料理

イギリスからやってきた黒人女性オーナーはジャマイカ出身。というわけで、
この辺り初のジャマイカ料理レストランオープンということになった。

オーナー自ら料理人というアットホームな感じのレストラン。
初日演奏を終えると
「うちの一番のお薦めメニュー!名物料理をごちそうするね」
その気持ちはありがたかったのだが、演奏中からこのレストランのただならぬ雰囲気に
私たちは気付いていた。

まず注文されてから料理が来るまでに軽く1時間はかかる。
さらにやっと運ばれてきた料理が“名物料理”とはほど遠いみすぼらしい外見。

そして極めつけはそれを口にしたとたんのお客さんたちの反応
目を見開いたまま、沈黙…そして、あわてて流し込む水やビール。
これでは、気になって演奏どころではないではないか。
そうして1時間後、私たちのテーブルにもその“名物料理”が運ばれてきた。
丸い皿に白いご飯、煮豆、フライがのった定食である。彩りも何もあったもんじゃない。
「いただきまーす!」
それでもおなかがすいていたので思い切り豆を口に放り込む。その瞬間
「ぐふっ…!」
ものすごい辛さで口の中に火がついたよう。
その旨みがついていないのでコクとか深みとか、
辛さを和らげる、というか辛さを旨みに変えるものが何もない。
あわててフライにかぶりつき消火しようとするが
「あれれっ?」
今度は全く味がない。異常なほど淡白なのだ。何の肉?鳥?それとも魚?
なんて思っていると
「これは肉でも魚でもない気がする」
とベラ。
「じゃあ、何だって言うの?」
意味不明のものを食べるのはさすがに気持ち悪いので女主人に確かめる。
「あ、それね、この定食の目玉なんですよ。フライ・トマトなんです」
って

1時間も待たされた挙句に、ご飯に豆にトマト。これじゃあ、お客さんは入らないだろう。
私たちはすごすごとレストランを後にすると
「違うレストラン探した方がいいかも」
とひりひりする舌と唇を冷たい日本茶で冷やしながら話し合った。

結局3ヶ月でそのレストランは閉店となった。本物のジャマイカはどうだか知らないが
それ以来ベラはすっかり“ジャマイカ料理”に怯えている。
そして日本の「わさび」「豆板醤」「ラー油」を口にするたびに、ああ~とため息をつく。
「僕の体はオリエンタル向きにできているんだ!」
喜んで かけるのはいいがトマトソースのスパゲティに「醤油」をかけ
ポテトサラダに「ラー油」をかけるのはちょっとどうかと思うが。

(第28話につづく)

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