「いたあぁ~いっ!」
突然はじまった「左耳の激痛と難聴」に
ソファにうずくまりながら、わたしはうなり声をあげた。
「すぐに電話するからね」
べラは友人のロベルトに電話をかけ、すぐに約束をとりつけた。
「午後3時まで、我慢できる?」
「ケケケッ(な、なに)?」
って、妖怪みたいだが、本人は痛みにもだえ苦しんでいるのだ。
ロベルトの奥様はドクター、それも「耳鼻咽喉科」なのであった。
「あら~、細菌にやられてるわねぇ」
薬を処方してもらい、帰途につく。
「早くなおさないと!あさって、残りの6曲の録音だよね」
「へっ、録音する気?」
「もっちろん、音は聞こえるし指も動くもん!」
その瞬間、べラはおびえたような顔つきになり
この1ヶ月の「写真撮影」に始まった
寝ても覚めてもYou tube!の毎日を思い出しながら、言った。
「いつから、You tube教に入っちゃったの?」
さて、薬を耳に流しこみながら
残り6曲の「録音」である。
今回ボランティアで協力してくれるのは、友人のマイク。
ドイツ人である。
元・音響さんである彼は、なにより音の質を第一に考え
「キーボード」に直接ケーブルを接続する方法をすすめる。
「だめっ、ピアノじゃなきゃ!電子ピアノじゃ、ニュアンス伝わらないよ」
「スタジオじゃないから、それじゃ生活音が入ってクリーンに録れないよ」
「それでもいい、音質は落ちてもピアノ!」
「いや、音質が第一だね」
わたしたちは互いに一歩もゆずらず、本気で言いあっていた。
両手を振り回し、何とか相手を説得しようと必死。
まるで、けんかをしているような
そのぴりぴりとした空気に耐え切れなくなったベラは
「じゃ、ふたりで話し合って、決めてね」
と、別の部屋に行こうとするが
「どこに行く!」
とマイクに一喝され、
仕方なく、わたしたちのあいだで大きな体を縮めていた。
「ピアノじゃなきゃ、どこにもわたしはいない!」
「こんな音質じゃ、とても営業には使えないね!」
そのとき、思いがけない言葉が、わたしの中からあふれてきた。
「仕事なんか、取れなくたっていい。わたし、仕事がなくて貧乏で死んだって、
ピアノを弾いて死ぬんなら、自分をやりながら死ぬんなら、それでいい!」
マイクとべラは、それを聞くと言葉を失い、
しばし呆然として立ち尽くしていた。そして
「ドイツ人は頑固だって思ってたけど、日本人の方がすごいな・・・」
と、放心したようにつぶやいた。
べラはマイクの肩を叩きながら
「狂ってる人には、かなわないよ、マイク・・・」
そうして、「ピアノで録音」が始まった。
電話が鳴らないよう受話器をはずし、窓もみんな閉めて。
オウムは台所に監禁され、二重にドアが閉められた。
「いくよ!」
マイクは、さっきまで言い争っていたことがうそのように
全力を傾けて、録音にあたってくれた。
最初から「1回録り」と、決めていたので集中力が勝負。
額から汗を流しながら、マイクはわたしの横で
黙々と録音してくれた。そして、最後の曲が終わると
「コンテンタ(満足した)?」
と、口の端を持ち上げて、笑った。
今回の「You tub作り」で、わたしはたくさんのことを教えてもらった。
みんなの前向きなクリエイティブ精神、創作にかける情熱。
そのまっすぐなエネルギー。
なんの、見返りもなしに、全力をかたむけるということ。
ただ、「やろうよ!」という気持ちだけで。
それはなんて、まっすぐで強烈なエネルギーなのだろう。
「仕事を獲得する」目的で始めた、You tube作りだった。
営業用に使えるように、と。
でも、わたしはもう十分に、目的を達成したのを感じていた。
「無償の愛情、情熱を注ぐ」という。
全力を注いで、「人生の1部を仲間と共有する」という。
それが何より大切な、わたしの宝ものになった。
人生は、なんて不思議なんだろう。
目的に向かって歩いているあいだに、
その道の中に隠されていた、真の目的、意味に気づかされる。
まるで、アルキミスタ(錬金術士)の魔法のように。
金を、不老長寿の霊薬を探しながら
実は、真の宝は、この「探し続ける過程」にこそあったのだと、わかる。
9月の猛暑の中、玉の汗を吹き出させながら
「You tube作り」を快く、引き受けてくれた
ソラ、アルカディ、アルミン、マイク、ベラ、ありがとう。
そして、You tube作りのきっかけを作ってくださった大野さん、
ほんとうに、ありがとうございます。
このブログを、応援してくださるみなさんがいなければ
ここまでまっすぐ、歩いてくることはできませんでした。
わたしたちは、互いが互いの人生道を照らす星。
どんな暗いでこぼこ道でも、まっすぐ歩いていけるように。
わたしもみなさんにとって、そうでありますように。
(You tube作り計画・完)
人生の道って、たぶん、ほとんどの場合、先の道は暗くてでこぼこですよね。それをまっすぐ歩くのはなかなか難しいことで、進むことをあきらめたり横道にそれたりする人の方が多いんじゃないのかなぁ。
ひとつひとつの経験を通して新しい扉を真正面から開いていくももちゃん、ステキですね。
思えば、このブログこそ
「何の見返りもなしに」「ただ、やろうよ!」
という気持ちだけで、始めていただいたのでした。
制作スタッフのみなさん、ありがとうございます。
「人生の一部を共有する」
たとえ遠く離れていても。
お互い、顔も知らなくても。
それができる「ブログ」って、なんてすばらしいんでしょう。
パソコンというものがあることを教えていただき
ありがとうございました。
2012年は、わたしにとって忘れられない
「生活現代化」スタートの年となりました。
これまでパソコンの「パ」の字も知らず
原始的生活をおくっていた野生児のわたしに
「文字を書く」ことを教えてくれてありがとう。
みなさんはわたしの、サリバン先生です。