昨年の十月に始まった油絵教室。三か月の初級コースが終了し、今年の二月から、初中級コースがスタート!「リンゴや陶器の静物画」を描くのが「筋」であるが、常識やプログラム全くを無視して突き進むのが「我が道を行くライオン」。先生、すみません。
いきなり「アンダルシアの白い村」を描いているが、最近は先生も
「いい感じだねぇ」
「フリヒリアナ村に行って写真を撮ってくるといいよ」
などと、最初のすったもんだがうそのよう(笑)。終わりよければ、すべてよし。まだ、始まったばかりだけど。
で、油絵教室のメンバーは十五人余り。毎週一回、三時間ほどこの教室に集まり、油絵を描いている。レベルはピンキリ。その間、音楽係の男性が毎週、ボレロやシャンソン、サルサなどいろいろな曲をかけてくれる。この辺が、マラガ。オーレ!
「静かにしてください。集中できません」
なんて言う人は、マラガにはいないのだ(笑)。さらに知っている曲がかかると、みんな歌う、歌う。そんな最中の、私の誕生日であった。
アクリル絵の具で、いろいろなものにペイントしていることを知っている仲間が、私のために「余っている絵の具および、キャンバスや板」をプレゼントしてくれた。まるで、三月から「今季の新作」を描き始めることを知っているかのよう。
本格的に絵をやっている人たちは、このマラガ市主催の油絵教室だけでは物足りないので「個人レッスン」をとっている。クリスティーナもフェデリコも。でも、一回40ユーロは私には高嶺の花。そしたら、クリスティーナが
「話したいことがある」
と、私をこっそり家に呼んでくれた。
「ももは、自分がどこにいるのか知るべき」
開口一番、、クリスティーナは言い放った。その不思議な言葉。その意味を知ることになったのは、二人で絵の具を混ぜている時だった。
「教室で作る絵の具の混ぜ方、発色が満足できない」
と、漏らしていた私のために、クリスティーナは個人レッスンで教えてもらったという「色の混ぜ方、作り方」を、私に教えてくれたのだった。
それは、まるでちがう色の混ぜ方、作り出し方だった。そして私は一瞬で、それが自分の求めていたものであると、確信した。
「これだ!」
「でしょ?」
クリスティーナは、私の顔をのぞき込んでニヤリと笑った。
「どうして、教室ではこれを教えてくれないのかなぁ」
「教室で教えてくれる配色も一つ。でも、他にもあるってこと。それを知るのが大切だよ。ももは、自分のいる場所をよく知らないと、道を誤る」
クリスティーナは、歯に衣を着せずに話すので、教室の中では異端児だった。先生の教えも無視して、描くことがよくある。
「私の個人の先生は、プロで描いてる人。だから値段も高いけど、アーティストの気持ちをわかってくれる」
そしてクリスティーナは、愉快そうに笑った。
「ももが教室で、空を赤で海を黄色で描きたいって言った時、やった!って思った。友達ができる!って。先生は目を白黒させてたけどね」
私たちは、お茶を飲みケーキを食べながら、ずっと絵を描きおしゃべりをしていた。そして、クリスティーナは最後に言った。
「教室で学べることは、できるだけ早く吸収して、ももは外に出たほうがいい。同じ先生にずっとつくより、いろいろなアーティストに接して吸収することが、今のももには必要だよ」
そして、ぽつりとつぶやいた。
「どうして私が、市の教室に行ってるか知ってる?」
そう言われればそうだ。個人レッスンだけでいいはずなのに。
「どうして?」
クリスティーナは一瞬黙って、目じりに優しさをにじませた。
「友達に出会うためだよ。絵だけ描いていたって、人生は豊かにならない」
一瞬、めまいのような温かな風が、私の中を吹き抜けていった。
「じゃ、また教室で」
「うん、金曜日に」
帰り道は、寒かった。初春の突風で吹っ飛ばされそうだ。足に力を入れて踏ん張る。そしたらふいに、ベラの言葉を思い出した。
「ピンタ(描くんだよ)!トカ(弾きなさい)!」
と、いつも言っていたベラ。ベッドの中から。最後の最後まで。
「その道の上に立っているよ!」
そのことを、ベラに伝えたいと思いながら、バスを待っていた。
書き忘れましたが、最後の「海の写真」は油絵教室の休憩時間。
歩いて三分で海。なので、深呼吸~。波の音が心地よい。
あ、タバコを吸いに来る人もいます(笑)。