Somonte(ソモンテ)は、コルドバ県にある小さな村です。
先日、わたしはこのソモンテ村の
「大地を市民の手に!プロジェクト」をすすめる農民・村民たちの
代表者のひとりである「ロサ」に、
30分インタビューする機会をえました。
毎日6時に起き、畑仕事に精を出す彼女は
日焼けしてまっくろ。鋭い光を宿した瞳が、
ソモンテ村のことを話すとき、一瞬、三日月型にゆるみます。
インタビューは田舎の家で行われたので
ロサは、大地に落ちていた真っ赤なハイビスカスを
黒髪に差すと、庭のイスに座って話し始めました。
「日本の人たちに、ぜひ知ってもらいたいことがあります」
Tシャツには大きく、「SOMONTE(ソモンテ)」の文字、
そして村のマスコットであるヤギの絵が描かれています。
「わたしたちは、警察に何度も連行されていますが、
犯罪者ではありません。犯罪、という意味でいえば、
農家や村人を食べていけない状況に追い込み、
自分たちは私腹をこやして何もしない政治家や
ロイヤルファミリーこそ、犯罪でしょう。人間として」
黒髪をうしろで束ねたロサは、40歳くらいに見えます。
娘や動物、野菜を育てているふつうのお母さん。
でも、その瞳や唇は、一歩も引かない決意に満ちています。
「今年の3月4日から、このプロジェクトは始まったんでしたね?」
「そうです。アンダルシアにほったらかしにされている
広大な私有地と県の所有地を、農民に無料で『貸し出す』
『使用権を与える』という、のが目的です。
土地があれば、働くことができます。
野菜を生産することができます。
食べることも、お金にかえることもできます。
政府の作り出す雇用を待っているのでは、遅い。
土地がありあまっているのです。土地は使ってこそ。
どうして、コルドバ県やハエン県の半分近い土地が
たった数家族の所有なのか。
そのこと自体が、おかしいのです。
そもそも土地はコミュニティのもので、
こんな広大な何万ヘクタールが誰かの個人財産であることが
まちがっているのです」
「使わないで個人や国の財産にされている『大地』を、
市民に無料で貸し出すべきだ』という訴えを
行動にしたのが今回の(新聞を見せながら)
『ソモンテ村の活動家、無断で国の土地を占領する!』ですね。
国が所有する400ヘクタールの土地を、
住民とボランティアの手で整地し、野菜をつくった。
写真、見ましたよ、トマトがいっぱい!」
「『無断で占拠』って、隣人の家に勝手に入り込んだみたいに
書かれてますけど、
ほんとうは、最初に無断で占拠したのは、
金持ちや国、ロイヤルファミリーの方なんですけどね」
「その整地も、1つ1つ手で、石を拾ってしたと聞きましたが」
「周辺の農民はもちろん、ボランティアで毎日数人、
参加してくれています。フランス人やドイツ人もいますよ」
「先日、5回目の強制連行をTVで見ましたが、だいじょうぶですか」
「もう、顔見知りですから(笑)」
「アンダルシアの広大な私有地、国の所有地が、
1日も早く、市民に無料で貸し出される日を祈っています」
「ええ、必ずやります。娘たちの世代のために。
これから生まれてくる人たちが、耕せる土地を持てるように」
「できますかね」
「迷いがあったら、できないわ」
白い歯を見せて、ロサは笑った。
その数日後、警察に囲まれて連行される
ロサと仲間たちの姿が、TVの画面に映し出された。
彼女たちは、りんとした態度で仲間に手を振りながら
「大地を市民の手に!」
と、叫んでいた。
その数日後、ロイヤルファミリーのひとりである
ドゥケサ・デ・アルバが、アンダルシアに広大な土地を所有し、
個人財産としているのが、明らかになった。
彼女は、恵まれたロイヤルファミリーの生活のうえ
毎日、6000ユーロ近い金を、土地の所有にからめて
受け取っていたのだ。
しかし、それが裁かれることも、土地を没収されることもなかった。
毎日6000ユーロという大金を湧きあげる泉、
その何万ヘクタールという土地は、
返還を求めるべきだろう。
土地のない農民、働きたい市民の手に「返す」べきものである。
ソモンテ村の誰も、
土地を「自分のもの」にしたいとは言っていない。
土地を「使わせてほしい、働かせてほしい」と言っているのだ。
人には、それぞれ自分の闘いがある。
ロサのそれと、わたしたちのそれとはちがうかもしれない。
でも、まっこうから体を張って立ち向かうロサを、
わたしは応援したい。
がんばれ、ソモンテ!
ソモンテの挑戦は今、始まったばかり。
★「imagenes de Somonte」と入れれば、
ソモンテ村の『大地を市民の手に!プロジェクト』のようすを
見ることができます。
黒髪でマイクやメガホンを握っているのが、ロサです。