第47話 キャンプ野郎とボロボロルノーで行くモロッコの旅(前編)

10月に入りようやく仕事も一段落したので、6年越しの
夢であったモロッコへ行くことにした。
モロッコといえば、♪ここは地の果てアルジェリア~♪の
更に西の果てにあるのだからすごいぞ。

とはいえ、ここ南スペイン、つまりヨーロッパ大陸の南端からは
海峡を挟んでたったの14kmなのだ。
ってことは、水平線の向こうにうっすらと、ではなく
どーんとアフリカ大陸が浮かんでいる。
一つの大陸にいながら別の大陸を眺めて暮らすって
島国ニッポンに育った私には、妙な感じだ。

 

何しろ初めてのヒブラルタル海峡横断、アフリカ大陸上陸なので
気分はいやがうえにも高まる。さてどのツアーに参加しようか
とパンフを眺めていると、横で見ていたベラが、

「一日200kmまでなら運転してもいーよ」

「えっ、そーなの?」

とは言いつつも、脳裏に浮かんだのは彼の愛車
ボロボロのルノー。どれくらいボロボロって、
後に友人たちに車でモロッコを旅してきたことを話すたび
まず最初にいわれるのが、

「ええっ、あの車で!!…」

自慢じゃないが、日本じゃとうていお目にかかれぬ代物
ルノー11、20年ものなのだ。

そのうえ、この車についてくる保険がまた心細い。

「これがあれば大丈夫」って、自信満々に保険屋に渡された緑色の紙切れが一枚。
ちょっと、本当にこの紙持ってたらJEFとか来てくれるんだろうか。
やたら陽気なスペインの保険屋に、ジュラバ姿のモロッコ人JEFって図
もうこれだけでダメってかんじだよなぁ、はぁ。

結局、またしても”あてになるのは自分だけ”
サバイバル生活は、モロッコでも続きそうなのだった。

何しろ保険屋もJEFも車もあてにできないので
旅の準備にも自然と力が入る。替えのタイヤやら、寝袋やら、
ミネラルウォーターなんて25リットル分、
食料もダンボール2箱分、懐中電灯、ろうそく、蚊取り線香…、
なんか行く前からすごい荷物。
バケーションってゆーより山登りみたいだ。

何もここまでしなくても、モロッコっていちおう
観光地なんだからと思うのだが、なにせキャンプ野郎だから、
一人黙々自炊セットのチェックに余念がない。

「マイナス30度でもごはんが炊けるんだぞ。」
と自身満々なのだが、別に私たち北極に行くわけじゃないんだから。
それにモロッコって、どっちかってゆーと、灼熱の砂漠に
ラクダってイメージじゃなのかなぁ。
まあ、細かいことはいーとして、夜中まで二人せっせと準備に励んだおかげで、
「ビエン・ペルフェクト(よし、完ペキだ)!」

キャンプ野郎がそう言うなら間違いないんだろう。
車も大掃除してピカピカ、私たちの顔だって二人ともガナと
気合いでてかてかだ。

「バモノス(さあ出発)!」

マラガからまずアルヘシラスまで車で二時間、そこからフェリーに乗って一時間。
あら、もうモロッコ?アフリカ大陸?
あんまりあっけなくって、いったい積年(といっても6年だが)の思いは何だったんだ。
毎日地中海を眺めては、この向こうにあるモロッコにひとり思いをはせ、
ため息さえついていたとゆーのに。

さて、税関に着くとパスポートと車のチェック。
「ちょっと行ってくるね」と笑顔で出かけて行ったベラが
一時間たっても帰ってこない。よく見ると、遠くの方に
ジュラバ姿の男と警察官に囲まれた彼の姿が!
いったいどーしたのだ。
あっちこっち、窓口を引き回され、やっと戻ってきたベラの顔からはすっかり笑顔が消え、
別人のように憔悴している。

「モロ(モロッコ人)のヤツら!」

聞けば、車の証明書類に文句をつけられ、
このままモロッコに入国したければ30ユーロ払え、イヤなら
もう一度スペインまで船で戻るんだね~、
と役人・ガイド・警察つるんでタカってきたというのだ。
くやしがりながらも、
「30ユーロは高い!ほら、僕の車見てよ。ボロボロでしょ。
こんな車で自炊しながら旅するんだから。
ねっ、まけてよ、お願い!」
と頼みこんで、ちゃっかり20ユーロにまけてもらったらしい。
まったくどっちもどっちだ。

だいたいスペイン語でも何とかなるとタカをくくっていたのが大間違い。
モロッコはアラブ語とフランス語です。
念のため。おかげで私など、どこへ行っても、
「マダーム!」
なのだ。フランス語なんて、メルシーと
シラク(これは人名だ)くらいしか知らないので、
いきなり頼みの綱は、ベラが学生の頃に二年間勉強した
フランス語(おいおい)になってしまった。

キャンプ野郎にボロボロルノー、うろおぼえのフランス語
これが頼りの全てだなんて、はぁ。これでなみいる
モロの襲撃に果たして太刀打ちできるのだろうか。

(第48話につづく)

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