第50話 マラガ式健康法

日雇い音楽屋を始めてはや6年。本当にあっという間だった。
何しろ毎週、思ってもみないことばかり起るので
当初は驚いてばっかりで
「ひぇ──っ」「おいおい」「そんな──っ!」
と口では言いつつ、身体は全力投球
って、ダチョウクラブみたいだなぁ。
日本ではいつも「ムキになるな、怒るな」と言われていたが、
その源は”身も心も全身全霊注ぎ込みたい!”
という気質の現れだったのだ、と今になって分かる。
うちの母など、私が小学生の頃、ため息まじりに
「あんたはすぐ怒れちゃうんだねぇ」
とあきれていたものだった。厳密に言うと、怒っているのではなく“燃えている”のだが、
何しろ熱くなったらまっしぐら(闘牛だな)!で、両親も先生も友人も、常識もモラルも、
何者も、この30年余り私を止めることはできなかった。
あっという間の5年間だったが、毎日あんまりいろいろあるので、
体感時間は一年が3、4年相当である。だいたい、1ヵ月前のことが
2、3ヵ月前に感じられる毎日を5年間もやってきちゃった、
って自分ながら突拍子もないヤツだ(やっぱりダチョウみたいだな)。

さて、一年中“燃えている”マラガ人、
家で、通りで、バルで一年中全力でディスカッションしている。
両手を振り回し大声で主張しあうその姿は日本人から見れば
「ヤバイ、喧嘩になっちゃったよ~」
でも、マラガ人“大声・闘牛族”からしたらただのおしゃべり、
食事前の軽いアペリティボ(食前酒)“ひと燃え”に過ぎない。
その証拠にディスカッションが終るやさっさと肩など叩きながら
別の話題に大笑いしている。この切り替えの早さ。
そんなマラガ人の三大基本行動といったら
“フェリア(祭)”と“プラジャ(浜辺)”と
“コメール(食べる)”だ。

この“ノー・フンシオナ(機能しない)”のマラガにあって
フェリアの日程だけは一年中マラガ県内で催されるフェリアに
毎週参加できるように見事に調整されている。
さらに国の祝祭日とは別に地方の休日、市の祝日を
ボコボコ作り、大型連休の最終日である日曜日の次の
月曜日を
“ディア・デ・レクペラシオン(回復の日)”として
休みにしてしまう。
“日曜の夜まで全力で遊べるように”って
これで大人が言っていることだ。マラガ人恐るべし。

そして、マラガ人の神髄はコメール、食べることにある。
典型的朝食として知られる“チューロ&チョコラテ”。
チューロは棒状の甘くない揚パンで、これをチョコラテ(どろりと重く甘いチョコレート)につけて
食べる。それも朝から。
ストレスで弱った日本人には拷問とも思えるモーニングメニュー。
「にしても朝から揚パンとチョコレートはないんじゃないの!?」
と言ったら、3ヶ月日本にいたことのある友人曰く
「朝からアロス(ごはん)にスープ(味噌汁のこと)の方が信じられないよ」

驚きのメインはゆっくり午後2時過ぎに始まるアルムエルソ(昼食)。
平日は仕事があるので30~40分で済ませてしまうが、
週末は海岸通に並ぶレストランで日光浴も兼ね家族、友人集まって
軽く2~3時間はかけて食べる。
そのままメリエンダ(午後のおやつ)や場合によると
セナ(夕食)に突入する無制限ぶりも。
そのうえ有名なシエスタ(お昼寝)でスペイン人は35才を過ぎるとみんな
またたくまにゴルド(おでぶさん)になってしまうのだ。

とはいえ、スペインの平均寿命はかなりの高齢。
日本とほとんど差がない。
先日、テレビで
“ヨーロッパ一自殺の少ない国”として我らがスペインが取り上げられていた。オ~レ!
ってことは
“フェリア(祭)”と“プラジャ(浜辺)”と
“コメール(食べること)”は実はすごく
身体にいいのではないか?
この3つのことをしている時、マラガ人の顔は
 “ガナ”でてかてかに怪しく輝き、全身が喜びではちきれそうになっている。
そうか、マラガ人って太陽電池みたいなんだな。
日に当てておくといつの間にか充電して元気になっている。
さすがコスタ・デル・ソル(太陽海岸)さすが太陽の子マラゲーニョス。
失業率25%のマラガ人がヨーロッパ一と自慢していいもの。
それはこの“人生免疫力”なのだ。

(第51話につづく)

Facebook にシェア
[`google_buzz` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です