マラガを含む、南スペイン・アンダルシア地方は、
いわゆるスペイン的な見どころ、エッセンスがぎっしりつまっている。
いかにもスペイン的な風景、フラメンコ、闘牛、黒髪のジプシー、
真紅のカーネーション、真っ青な空、パエジャ、ガスパチョ、
地中海、コスタ・デル・ソル(太陽海岸)、
グラナダのアルハンブラ宮殿、セビージャのアルカサル、
コルドバのメスキータ、これぜーんぶアンダルシアにあるのだ、オーレ!
とはいえ7年も住んでいると、観光名所は行き尽くしてしまった。
アルハンブラ宮殿など8回も行ったので、ガイドだってできる。
そんな私の密かな楽しみは、“プエブロ・ブランコ”の旅。
時間ができるとさっさとリュックを背負って出かけること7年。
訪れたプエブロ・ブランコの数はゆうに100を超える。
プエブロ・ブランコって、スペイン語で”白い村”とゆー意味なのだが、
アンダルシアにはこの白壁の家が集まる小さな村が無数にある。
オリーブの丘の斜面にへばりつくようにある白い村。
中に一歩足を踏み入れば、白壁の家の間をどこまでも続く
ぐねぐねと曲がった細い石畳の通りに知らぬまに奥へ奥へと誘われる。
ふと不安になり振り返るとどこまでも白壁の家々。いったい今、自分が
どこにいるのかわからなくなる。
…“白い迷路”という言葉が脳裏をよぎる。
そんな幻想的な白い村ではあるが、なにしろただの村なので
バスなど1日1本、週末は運休、夕暮れ時にはヤギまで乗り込んできたりする。
場所によっては宿泊施設すらなかったりして、
この“何が待ってるかわからない感”が、いやがうえにも
旅の期待感を盛り上げるのだ。
そのうえ、ノー・フンシオナ(機能しない)のアンダルシア、
田舎はさらにノー・フンシオナで人々のおとぼけぶりったら、
常識を逸している。一度、バス停も何もない所に一人降ろされたのだが、
「帰りはどこから乗るの?」
と尋ねる私に運転手のおじさん
「ポル・アキ」
って、“このへん”ってことなのだが、アバウトすぎるぞ。
せめて棒の一本とか石の一つでも置いといてほしい。
景色を覚えろとゆーのだろうか。
ある村で教会を訪ねた時、ドアが閉まっているので
あきらめて帰ろうとすると、背後から一人のセニョール(おじさん)が、
「カギなら広場にあるバル・アントニオへ行って尋ねてごらん」
「えっ!?」
教会のカギがバル(日本でいう居酒屋と喫茶店が合体した飲食施設)にあるって、いったい。それもアントニオさんに尋ねろって、まるで宝探しかスパイゲームだ。
「オラ!ブエナス・タルデス(こんにちは)」
バルの戸口で叫ぶなり、店内は一瞬にして大騒ぎになった。
「中国人だ!」
「いったいどこからやってきたんだ!?」
一人のおじいさんなんて、
「新しい人間だ・・・」
とつぶやいたのだ。ちょ、ちょっと。
東洋人バックパッカーの登場が、この村の人々にとって、
かなりセンセーショナルだったことは間違いない。
「アントニオさんは、みえますか?」
「おおーっ!!」
はるばる東洋の国からアントニオに何の用だ、と言わんばかりの
どよめき。まいったなぁ。
「私が、アントニオです。」
誇らしげに、客を左右にかき分けて現れたご主人。誇らしげってのが、
またアンダルシア人なのだが。カギのことを伝えると、
とっても自慢気に高々とカギを差し出してくれた。
結局、アントニオさんとその仲間に連れられ、教会はもちろん、
村にあるものほとんど全てを案内されること3時間。
記念写真まで一緒に撮ってしまった。とゆーか、無理矢理撮らされたのだが。
とある遺跡に行った時など、行きはタクシーで行ったものの、
帰ろうと思ったら、一台のタクシーも、バスも見当たらない。
窓口のおじさん、
「大丈夫、あの道まで行けばバスがあるよ。」
って、あの道って、あのはるか向こうにかすんで見える、
あの豆粒みたいな車の走ってる道のこと?8月の40℃の炎天下で、
あそこまで一時間歩けっての?
結局、ヒッチハイクして町までたどり着いたのだが…。
全く思ってみないことが目白押しの田舎旅。ただの村、されど村、
プエブロ・ブランコは奥が深い。
その他のオススメの村。
マラガから一時間で行けるカサレス。
交通の便の良いフリヒリアナ・ロンダ周辺、
アルコス・デ・ラ・フロンテーラもいい。
思いっきり田舎がいいならアルプハラ集落やアラセーナ集落もおすすめ。
ただし、バスの時刻に要注意。かつて“一日一本”しかなく
それも早朝6時ということがあった。
それでもオスタル(宿屋)のおじさん厚い胸をポンと叩いて
「トランキーラ(大丈夫、大丈夫)!」って、しかし目覚まし時計もなく
いったいどーするんだ!?朝方やっと眠りかけた頃、バンバンとドアを叩く音
「バスだー!バスが来るぞー!」って宿屋中大騒ぎ。
私は引きずり出されるようにして真っ暗なバス停(とおぼしき場所)に
連れて行かれ、寝ぼけたままだがバスに乗ることができた。
あの宿屋のおじさん、いつもあんなことしてるんだろうか。
一日一本が早朝6時ということは。
(第57話につづく)