1. ニッポン上陸!

待ちにまったニッポン上陸に胸をおどらせ、飛行機を一歩出ると、
わたしたちを待ちかまえていたのは、
なんと、うら若き20そこそこの、美しい娘さんだった。
「ベラ様ですね」
いったい、これはどうしたことか。
いったい、この娘さんは誰なのか。
なぜ、わたしたちが着くことを知っているのか。

「こ、こんにちわ・・・あわわ」
あわてふためくわたしたちを尻目に娘さんは、
美しい制服に身を包み、微笑をたたえている。
顔はモデルのように目元もどこも、パールできらきらと輝いているではないか。
「さぁ、どうぞ」
差し出されたのは、車イス。
「そうか」
そこではじめて、合点がいった。

ひざを傷めて長時間の連続歩行がむずかしいベラは
フランスの乗り継ぎの際、「車イス」を頼んでいた。
マラガ~パリへ飛んだあと、パリ~関空の便に乗り継ぐのに
わずか「1時間しか」ない。
あの広~いパリのシャルル・ドゴール空港でターミナルをかえ、
搭乗しようとすると、1時間では健常者でも、むずかしい。
そのうえ、重いバイオリンのケースを持って、である。

「パリから連絡を受けましたので」
娘さんは恥じらいながら、そっとつぶやいた。
「可憐じゃ~」
可憐なのはいいが、わたしは急に不安になった。
ヨーロッパで車イスを押してくれるのは、たいてい男性の方である。
それも、力強そうな。
パリでは、ポルトガルやアルジェリアの移民のお兄さんたちが
「はいよ~」
といった感じで、ベラの100キロの巨体をものともせず、ぐいぐいと押してくれた。
細い通路や段差だって、まったく平気。方向転換も自由自在だ。
だから、わたしも安心して任せられた。

が、ニッポンはどうだ。
20そこそこの娘さん。それも見るからに華奢な。
今まで力仕事をしたことは、あるのだろうか。
そのうえ、靴はヒールつきである。
「僕、いいよ。歩く」
べラも、さすがに気がひけて、お断りする。が、娘さんは
「どうぞ、どうぞ」
と、新しい仕事にすっかり意欲を見せている。
「はぁ~、ではお願いします」
不安にかられながら、車イスは動きだした。

空港出口までは、何度も「ちょっとした段差」があった。
そのたび、「うんんっ」と、娘さんはうなって懸命に車イスを押し出す。
エレベーターに乗りおりするたび、べラは壁に手をついてイスをけんめいに動かし、
わたしは、扉を開け閉めしながら
「はい、出て~っ」

20分後、なんとか「3人で力をあわせて」空港を脱出。
「ああ~、ありがとうございました。お世話になりました」

この時点で、かなりぐったりしていたが、休んでいる余裕はない!
名古屋では「新聞取材のため」
大野さんとクロさん、そして記者さんが待っているのだ。
わたしたちはさっそく「JR特急」に乗りこむ。大阪まで約1時間。
さらに新大阪からは「新幹線のぞみ」に乗り換え、名古屋まで1時間。
「うわぁ~、遠い・・・」
ぐったりするべラを座席に押し込みながら、わたしの心は20年前、
会社員をしながら暮らしていた「名古屋」にむかって、飛んでいた。

(「もものニッポン驚嘆記・2」につづく)

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「1. ニッポン上陸!」への2件のフィードバック

  1. たいへん、お待たせいたしました。
    「ニッポン驚嘆記」のはじまりです。

    明日は、クロさんも登場しますよ!
    ブログでしか知らなかったクロさんと
    はじめて出会ったときのこと、思い出しながら書きました。

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