2. のぞみに仰天、大野さん、クロさんに会う!

新大阪での乗り換えは、「たったの5分」だったので、
わたしたちは必死でスーツケースをひきづりながら「のぞみ」に飛び乗った。
本当は、大阪から何時発ののぞみに乗るのか
名古屋で待機する大野さんに、電話をする手はずになっていたのだが
飛び乗ってしまったので、あとのまつり。
新幹線に「公衆電話がある」と知ったのは、それから2週間後のことだった。

「これが、日本で一番早い列車なんだよね!」
べラが、うきうきと窓にへばりつく。
新大阪を出るや、のぞみはすごい勢いでスピードをあげ始めた。
「うわわわ~っ」
あまりの速さに、すっかり固まってしまったのは、わたしの方。
なんだ、これは~!怖いよー。
周りを見回すと、乗客のみなさんは何事もないような顔で、
ゆったりと「くつろいで」いらっしゃる。
だいたい新幹線に最後に乗ったのが、いつかも思い出せないので
「は、は、はやい~っ」
「すごい~っ!飛行機が離陸するときみたい」
と、わたしたちは、しばらくのあいだ「のぞみの速さ」のことしか
会話になかった。

思えば、ここ3年間というもの、わたしの唯一乗った交通機関は
マラガの市バスと、自家用車。あるいは自転車。
なので、のぞみの「スピード体感」は、驚異であった。
「あんまり速くて、景色が見れない・・・・」
べラは、窓に額をつけて、うなっている。
景色は文字どおり、「あっ」というまに後方に飛んでいく。
「ああっ、ここが京都だよ!日本の昔の都があった・・・」
京都ガイドも終わらないうちに、のぞみは軽く3分で京都府を通過し、
「お寺か塔、見えた?」
とたずねるわたしにべラ、
「ぜんぶうしろに飛んでった・・・」

さて気をとりなおし、車内販売の駅弁と緑茶のペットボトルを買う。
「おいし~い!」
初めて飲む「緑茶のペットボトル」に感激したべラは、すぐに2本目を注文。
以降、日本滞在中、べラのリュックにはいつも、緑茶ボトルが隠されていた。
「名古屋だよ!」

のぞみがスピードをおとし始める。
「なつかし~!」
ここはわたしが20年前、暮らしていた町。
会社員をしていたときのことが、ふいに思い出される。
6年間ではあったが、
ここには、20代のわたしの思い出が、いっぱいつまっている。

「ここは、伏見。ここが栄!」
タクシーの車窓から眺める名古屋の町は、すっきりとした秋晴れで美しかった。
久屋大通にホテルをとったわたしたちは、部屋にあがって仰天。
なんと、窓のまん前にどど~んと建ちそびえているのは、あのあの
「テレビ塔」なのであった。
「すごい~、まさに名古屋のへそじゃ~!」
ぐったりとしたべラを部屋に残し、わたしだけ「身支度」する。
なにしろ、これから「新聞の取材」が、待っているのだ。

ホテルの下で、迎えに来てくれることになっている大野さんを待っていると
「あれ~、やっぱり、これかなーとは思ったけど」
聞き覚えのある声にふりむくと、ああ、我らが大野さんである。
「もも きみどり、って言うだけあって、黄緑色の服。遠くから目立ってたよ~」
それが3年ぶりに再会した、大野さんの第一声であった。

大野さんは、会社員時代の先輩である。
当時は、同じ企画部で机を並べて仕事をしていたが、その数年後
大野さんは転職。わたしはヨーロッパ遊学で、連絡が途絶えていた。
3年前、いきなり
「日本に帰ってるんです!」と突然、電話して大野さんを驚かせ
わたしたちは、実に20年ぶりに再会したのであった。

その後、スペインに住んでいるわたしに「ブログ」があることを教え、
「パソコンの使いかた」を根気よく説明し、
わたしの手書きの原稿を入力し、
気がついたら、
「マネージャー」になっていたのであった。
少なくとも、わたしたちは大野さんなしでは、今回の日本滞在中
いつ、どこで、誰に会ったらいいのか、すっかりわからなくなっていた。

べラの胸に下げられた「迷子カード」には、そういうわけで
「ここに、連絡してください!」
という日本語の下に、大野さんのケイタイ番号が、書き込まれていた。

取材場所となっていたのは、車道にあるメイクアップスタジオ
「トゥージュール」さんであった。
わたしたちがかつて働いていた会社は「千種」にあったので
このあたりの景色には、見覚えがある。
ふいに、なつかしさで胸がいっぱいになる。

「こんにちは~」
ドアが開くと、一人の女性が中から現れた。
すごく自然な感じの、穏やかな笑顔の、とてもすてきな女性だった。
この人こそ、メイクアップスタジオ「トゥージュール」の代表、および
1年の長きに渡って、ブログの写真やイラストを忍耐づよく「スキャニング」し
いろいろなコメントや解答を、ブログに書き続けてくれた
「クロ隊長」こと、クロさんである。

「ももちゃん・・・」
「クロさん・・・」
わたしたちは玄関で名前を呼び合ったまま、しばらく立ちどまってしまった。
だって、もうずっと前から友達だったような気がしたから。
とても初めて会ったとは、思えなかった。
「じゃ、メイクよろしくお願いします。1時間後に取材ですから」
大野さんは、わたしたち二人をスタジオに残すと、音もなく去っていった。

わたしたちは、鏡に向かいあいながら、いろんな話をした。
今までずっと話したかった、聞きたかったいろんなことを。
ブログのこと、仕事のこと、私生活のこと、メイクのこと・・・

1時間後、クロさんの手によって「しみ」がかくされ、
美しく「変身した」頃をみはからって、大野さんが戻ってきた。
そして、しばらくすると
「こんにちは~!」
と、スタジオのドアが開いた。
わたしたちの前に笑顔で現れたのは、中日新聞の明日の星、
若き、橋詰記者であった。
(「ニッポン驚嘆記・3」につづく)

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「2. のぞみに仰天、大野さん、クロさんに会う!」への6件のフィードバック

  1. いやあ、人間の記憶とは面白いものですね。「わたしたちは玄関で名前を呼び合ったまま、しばらく立ちどまってしまった。」とありますが、私サイド的に語ると、

    扉を開けると同時にガシッと手を掴み、「わ〜い。クロさ〜ん。顔見せてください!」とグイグイ顔を近づけてきた。それがももちゃんと私の初顔合わせだった。

    って感じ。ね。全然違うよね。旦那君にそう言ったら、ももちゃん的には、玄関での数秒が長く感じられたんだろうねえと言ってました。

    しかし、そうかあ、のぞみってそんなに速く感じられるものなのかあ。慣れって恐ろしいものですね。

    さて、次は中日新聞の取材ですね。ももちゃん視点でどう語られるのか、大変楽しみです。

  2. そうそう、テレビ塔の下に黄緑色のダウンを着て髪にカラフルな飾りが付いてて
    ・・・
    まるで、うぐいすのフリをするオウムのようでした(笑)
    連絡無くって本当に心配したんだからね。
    もしかして、ベラのバイオリンに高額の関税がかけられちゃったのかなぁ、とか
    また(?)ももが入国の際に □下痢 にチェックして隔離されちゃったのかなぁとか。

  3. なるほど~、クロさんの描写は正しいですね!

    玄関で挨拶をしたとき、たしかクロさんの顔が
    髪の毛でちょっと影になってて見えにくく
    「クロさんを、ちゃんと見たいっ!」
    と、強く思ったこと、そう体が動いたこと、おぼえております。

    初対面でいきなり、
    「ぐいっと手をつかんで顔を近づける」って、
    文字で読むと、おそろしいですね。
    よほどクロさんに会いたかったんだなぁ~。
    でもあのとき、クロさん驚いてなかったような・・・硬直してたのかな。

  4. KENさんの表現には、いつも驚かされますねぇ。
    まるで「うぐいすのふりをするオウム」って、
    妙に言いえていて、感動しました。わたしのことなんだけど(笑)。

    そそとした抹茶色、和風のうぐいすになりきれない
    洋ものの、にぎやかで色鮮やかなオウム。
    わかるなぁ、うんうん。

    枝にとまって美しく歌う、うぐいすに憧れながら
    バサバサそこいらを飛び回り、騒がしいのですぐに見つかり
    地声で「ああ~っ」「うぎゃあ~どうしよう」って・・・

    でも思えば、エキゾチックな生き物ですね。
    珍種ってことで、
    ちょっと離れて見ているのには、いいかもしれません。

  5. ももさんのブログをあちこち読んでいます。
    千種!私はそこに10年間住んでいました。もう半世紀前のことです。
    あれ以来行っていないから、浦島花子もいいところでしょう。

  6. まぁ、千種に!十年も。
    懐かしいなぁ。名古屋に住んでいた頃が・・・

    急に、「カレーうどん」や「きしめん」が食べたくなってきた(笑)。

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