6. 回転寿司とへび焼き

生まれて初めての「回転寿司」に、
べラはただただ、目を丸くしていた。
とりあえず、両親が適当にみつくろって、お皿をべラの前におく。
「これは、何のさかなですか?」
食べる前に、いちいち尋ねるので最初は
「これは、アトゥン(まぐろ)」とか
「こっちは、サルモン(サーモン)」などと、きちんと答えていたが
「かつお」「あじ」「さば」・・・と次々、目の前にお皿が出てくると、
もう、食べるのに必死で、
「どの魚でもいいではないか!」
おいしいんだから。

が、べラはのんびりペースで、まだ2皿目をつついている。
「もも~、これは、何の魚?」
「ええっ、それは、う~ん、鯛の親戚」」
「これは?」
「回遊魚」「青魚の一種」とか、
どんどん返答がいい加減になってくる。

べラの驚きは、店の中のいたるところにあった。
「無料で、何杯でも緑茶が飲めること」
「テーブルに設置された蛇口から、どんどんお湯が出てくること」
「各テーブルにお店の人を呼ぶ、呼び鈴があること」
「お店のお兄さんたちが、ひっきりなしに叫んでいること」
(実際は「いらっしゃ~い」「鉄火お待たせいたしました!」とか
勢いよく働いていらっしょるのだが)
「店員の動きが異常に速いこと」(スペインに迅速という文字はない)
さらに、お店は満員で、お客さんがひっきりなしに出入りすること。
お店のお兄さんも、お客さんもみんな笑っていること。
「日本はどこに行っても、みんな笑っている。タクシーも、道をたずねても。
自然な笑顔がかえってくる。きっとみんな、幸せなんだね!」
それがべラが日本に来て「一番すてきなこと」だった。

べラは好ききらいがなく、幸せそうにゆっくりとお寿司をたいらげていく。
そのときであった。お兄さんがお皿を手に
「はい、おまちど~さま!」
「うわっ、へび焼きだ~っ!」
「はっ、へび?」
その言葉にお兄さんも、お皿を宙に浮かせたまま固まっている。
「あのねぇ、これは、あなごの一本焼き、っていうの!」
わたしは、そう言いたいのだが
スペイン語に「あなご」がないので、訳しようがない。

「ぼくは、へびは食べません」
などと言っているべラはほかっといて、わたしはさっそく
焼きたてのあなごにかぶりつく。
「ああ~、おいしいっ」
「べラちゃん食べないなら、わたし食べるよ!」
母も、さっそくあなごに食らいつく。
「・・・・・・・・」
べラは何も言わず、わたしたち二人をじっと見つめていた。
そして、
「とみ子さんが元気なのは、いつもへびを食べているからだ!」
と、うれしそうに言った。
きっと今日のことは、
「親子でへびを食べる図」として
べラの脳裏に、深く刻まれたにちがいない。

結局、べラが食べられなかったのは、「あなごとしょうが」だけ。
「香水か石鹸の味がする!」
と、しょうがを食べたあと、こっそり緑茶で口をすすいでいた。
うず高く積まれた皿を前に、いざお会計。
「いくらだったの?」
べラがおそるおそる尋ねる。
「まぁ、一人、2000円はいかないんじゃないの」
すると、今日一番のびっくり顔になった。
「ええっ、こんなに、お腹がはちきれそうに食べたのに!」

「ごちそうさまでした。おいしかったです」
何度も頭を下げるべラに、母が
「明日はちがうもの食べようね」
と言った。が、それを訳すとべラは「とんでもない」と首をふり、
真剣な口調でわたしに言った。
「もも、こんなにお金を使っていては、家がつぶれるよ」

ははは~、とわたしは聞き流していたが、
まさかそのとき、翌日からべラが、
両親がお金を使うごとに口うるさく
「バ・ア・ルイナール・ラ・カサ(家がつぶれる)!」
と必死で訴え、なんとか浪費をやめさせようとするとは
思ってもいなかったのである。

(「ニッポン驚嘆記・7」につづく)

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