中津川ケアセンターをあとにしたわたしたちは
「栗きんとんを買おう!」
という母の言葉で一路、中津川市内にある「川上屋」に向かった。
中津川出身の母によると、中津川は「菓子の町」らしい。
季節ごとに、店ごとに、いろいろな銘菓がたくさん作られている、
と、母は自慢げに語る。
「はい、べラちゃん、栗きんとん食べて!」
わたしたちは店内のお茶コーナーで、一服することにした。
べラは、目の前に出された「栗きんとん」を見るや
声をたてずに、驚いていた。
その驚きは、スペインで暮らすわたしには、よくわかった。
スペインはなんでも、サイズが大きい。
電化製品、食料品、生活雑貨、文房具はもちろん
食料品のパッケージまで、やたら大きく無駄なスペースが多い。
たとえば、肉のパックを3個と、洗剤1本を買ったら
もうスーパーの袋はいっぱい、という具合。
ケーキもしかり。
一切れが、大人の手のひらに乗るサイズ。
そのうえ高さが、10センチくらいある。
そういうものたちに囲まれ生活しているので、
栗きんとんは、お上品な「お嬢様」のように見えた。
明らかに、ガブッと勢いよく食べるものではない。
まず眺め、指先でそっとつまみ、栗の色と、重さを楽しむ。
おなかがすいていたら、とてもやってられないことである。
「いただきます」
べラは大きなグローブのような手の先で、そっとつまみあげた。
まるで、さくらんぼみたいに。
「おいしい?」
「うん・・・・・」
でも、なんか不思議な表情をしている。
「どうしたの?」
「少なすぎて、味がよくわからなかった」
「もっとガブって、いっていいよ」
「うん」
「ところでこれ、1個いくらなの?」
「230円」
「ええっ・・・」
「手づくりの、季節ものだからね」
べラは、指先のかけらを見つめながら
「もう150円、食べちゃった・・・」
川上屋は、昔の家屋をそのままお店にしているので
たいへん趣きがあり、外には小さな日本庭園まで造られている。
「こうよう、こうよう!」
と言いながら、べラは盛んにシャッターを切った。そして
「ああっ、いつも食事に入っている葉っぱがあるよ!」
と言うので近づいてみると、それは真っ赤な「もみじ」だった。
「すべてがデリケート」
それが、べラの日本の「食」に対する印象だった。
おいしいからと言って
「栗きんとんを4個も5個も食べてはいけない」のである。
一個だけ。
そこに、べラは日本の「美学」を見い出した。
「ごちそうさまでした」
再び高速に乗り、豊橋をめざす。
いつのまにかべラは眠ってしまったので
遠慮なく、わたしたちは日本語で話をし、
帰りの夕食は、家の近くで食べていくか、という話になった。
母は実は、昨日から腰をいためており
今日は一日、「つえをつきながら」であった。
歩けるし、座れるし、ハーモニカも吹けたので
また悪くなれば、あらためて病院に行こう、ということになっていた。
が、お昼ねから目覚めたべラは、開口一番
「とみ子さん、だいじょうぶ?」
と、母の腰の具合をたずねた。母が一日中
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
と答えるので、おぼえてしまったのだ。
「だいじょうぶだよ、今から夕ごはん食べに行くからね」
と母が言うと、べラはすごい勢いで
「ノーノー!じゃが芋を買いに行こう!夕ごはんはそのあと」
と、言ってきかない。わたしは内心
「始まったか・・・」
と、思ったが、べラの「じゃが芋療法レクチャー」は、
海を越え、国境を越え、とどまることはないのであった。
「じゃが芋をゆでて、タオルにくるんでつぶしたものを
腰に当てる。そうすると、熱い蒸気が出て、腰の痛みが治ります!」
わたしは、この「じゃが芋温湿布」を何度もさせられているし、
マラガ下町コミュニティでは、定番の「腰痛治療法」なのだが
日本では、ふつう「病院」に行く。
「ありがとね、心配してくれて」
母は必死に感謝の気持ちをのべるが、べラは真剣だった。
「この先に、うどん屋あったよなぁ」
と、話題が夕食に行こうものなら
「夕食はいいから、じゃが芋を買いに行こう!」
「じゃが芋、じゃが芋」
とどうにも、手がつけられなくなり、ついに母は
「家にじゃが芋あるから。家に帰ったらやるから、ねっ」
と、なんとかべラを納得させた。
夕食後、母は「じゃが芋療法」を行なった。
「あんなに言ってくれたから、悪くって・・・」
が、理由である。
そして、翌朝起きてもう一度。
が、どうであろう。
母の腰の痛みは、本当に治ってしまったのであった。
「まさか、ほんとうに治るなんて・・・」
わたしたちは日本語で、べラに聞こえないように言いあった。
「とみ子さん、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ!」
母が元気よく答えると、べラはそっとスペイン語で言った。
「じゃが芋、してもらえないと思ってた」
「どうして?」
「だって、今までしてくれた人、いないもん」
「ええっ、そーなの?」
「みんな、信じないんだよ、最初は」
「とみ子さんは、信じてくれた・・・」
というわけで、その日から母は、
べラの「じゃが芋療法」崇拝者の、貴重な一人となった。
(「ニッポン驚嘆記・11」につづく)
「じゃが芋療法」って、それ、どこかの国の伝統的な民間療法なのかな?それとも、ベラの発案?風邪ひいたときに「焼いたネギを首に巻く」ってのに近い感じな気がする。
べラに聞いてみたら、敬愛するドイツ人の
「KNEIPP先生」の教え、だと言うことでした。
彼の本を、大切に持っているべラは
体の調子がわるくなるたびこの
「水(もしくはお湯、蒸気)を使った治療法」を
自分の体で試しています。
もちろん、わたしたちマラガ下町コミュニティのメンバーも
実験台となっており、
わたしもいろいろやりました。
なべとか、たらい、ユーカリプトや松の葉などが置いてある
不思議なコーナーが、うちの中にあります。
KNEIPP先生って、セバスチャン・クナイプ氏のことかなぁ?
http://www.kneipp.jp/philosophy/kneipp.html
私の知り合いの方が、クナイプ社のバスソルトが発売された時、パッケージのカラーデザインに関わったことから、ここのバスソルトをいただいたことがあり、その香りが気に入ったので、たまぁにここのバスソルトは買います。
このクナイプ氏の療法ということであれば、ベラが信じるのも、なるほどって感じです。
すご~い!
クナイプ先生に関する「日本語の情報」を初めて見ました。
こんなお方だったのですね。
じゃが芋療法、させていただいております、クナイプ先生。
そして、目を開かせてくださったクロ隊長、ありがとうございました。