29.後藤KKとクロさん(2)

栄の居酒屋で、すっかり気持ちよくなっているわたしたちに
「はいっ」
と、クロさんが差し出したのは、わたしがブログで書いた
「バンドネオン売ります!」に関する、資料一式だった。

「ももちゃんが売りたい、っていうバンドネオン。
買いたいという方が数人みえたので、わたしがかわりに窓口になっときました」
なるほど、資料には「バンドネオン窓口」と書かれている。
そして、文面を読むにつれ、わたしの顔は驚愕でひきつった。
それはていねいな日本語で、お問い合わせをしてくださった方一人一人にあてて
それは懇意の、長いお手紙を書いてくださっているのである。

「お問い合わせいただきありがとうございます」に始まり、
「ももきみどりは移動中で、パソコンを持っておらず・・・」と謝罪し
「愛知県に来ていただくことは可能でしょうか」と、腰を低くしてお尋ねし
「これからはももきみどり本人に、ご連絡させます」と
今後の、わたしのやるべきことまで、記されているのである。
「うわあぁ~っ」

クロさんがいなかったら、どうなっていたのだろうかと思い、ぞっとした。
「バンドネオン売ります!」とは書いたものの、
その後の「窓口」や「連絡」のことなど、考えもいなかったのである。
「やや~っ、ありがとうございます!」

まだ、これからやることは山のようにあるのだろうが
「もう、だいじょうぶだ~」
と、この文面を読んで、すぐに思った。
「ああ、すべてうまくいく」
そういう文章だった。
なんという安心感。
この文章、そしてクロさんに漂うこの安心感は、なんなんだろう。

その夜、ホテルでわたしがその話をすると、
ベラは「ふんふん」とうなずきながら
「そりゃそうだよ。クロさんは『アンヘル・デ・ラ・グアルダ』だもん!」
と、いきなり言った。
「アンヘル・デ・ラ・グアルダ?へぇ~、どうして?」
こんな言葉を、ベラが誰かに対して使うのは初めて聞いたので、興味をひかれた。

「アンヘル・デ・ラ・グアルダは、日本語では何て言うのかなぁ?」
「直訳すると、守護天使、かな」
「背後について、守ったり、正しい道に導いてくれる?」
「背後に憑いて、うん、守ってくれる、と思う」
祖先の霊、のようだ。

「クロさんは、表には出ないんだよ。背後にいる。
じっと見ていて、守ったり、いい方向に導くのが、彼女の仕事なんだよ!」
「仕事なの?」
「そう。彼女のポジションは、背後なんだ」
「ははぁ~」

そして、ベラはゆるぎのない態度で
「クロさんがついていてくれれば、もう安心だよ。ああ~、よかった!」
と言うなり、眠ってしまった。

それ以来、わたしにとっての「クロ隊長」は、
ベラにとっては「クロ守護天使」である。
でも「背後、背後」ってベラ、日本には「背後霊」というものがあること
知らないのかなぁ。

(「ニッポン驚嘆記・30」につづく)

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「29.後藤KKとクロさん(2)」への2件のフィードバック

  1. ふむふむ。「アンヘル・デ・ラ・グアルダ」は英語に直すと「Angel of the Guard」だよね。なるほどぉ。守護天使だ。後藤が結婚した時、妹さんへの報告電話で「この人、意外に大和撫子だよ」と言ったのと似てるかも。たぶん、生い立ちからくる性質なんだろなぁ。

    ベラにありがとうとお伝えください。また、日本に来たら、背後から見守らせていただきます。

  2. 「クロさん、お世話になります。ベラです。
    よろしくお願いします。がんばって~!
    クロさん(がいてくれれば)だいじょうぶ!はい」

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