30.名古屋城・金シャチの正体

今日のビッグイベントは「名古屋城を見る!」。
べラにとっては、初めての「日本の城」なので、朝から鼻息が高い。
さっそく駆けつけると、外堀のところからもう「紅葉」が始まっている。
「うわぁ~、きれい!」
「こうよう~♪」
日本語で感動できるようになり、べラはすごい勢いで写真を撮り出した。
まだお城に着く前の、紅葉の散歩道で30枚くらい。
外堀で10枚・・・そのとき、従業員風のおじさんが声をはりあげた。

「あれが、金シャチね。ここから撮ると一番きれいだよ!」
わたしたちはその言葉に従い、さっそくおじさんの立ち位置に移動。すると・・・
「おお~っ」
「ほんとじゃー、すごい」
お城も紅葉も、金シャチもばっちりカメラに収まる。

急にスペインやモロッコの風習を思い出し
「あの、写真撮っても無料ですか」
と、おじさんに尋ねると
「無料、無料!好きなだけ撮ってってね~」
チップを払うのかな、と思ったがそうしている人は一人もおらず
わたしはまだ、後から「法外な料金を請求」されるのではないかと
ひとりおびえていた。

おじさんは「金シャチが泥棒に盗まれかけた話」や
「どちらがオス、どちらがメスか」などまで詳しく説明してくださった。
「あの外側は本物の金だって、はい、訳してあげて」
と、指導までしてくださり、お金を請求されることもなく、
名古屋城の金シャチについて、いろんなことを知ることができた。

まずは天守閣へ。
この日は晴天だったので、眺めが実にすばらしかった。
お城の中を展示物&パネルを見ながら降りてくると、べラが突然、声をあげた。
「ももの、うそつき!」
「な、な、なに?」
「金シャチは、『魚』だって言った」
「えっ、魚じゃないの?シャチって、『魚へん』じゃなかったっけ?」

べラの指す英語版パネルを見ると、なんと
「ドルフィン」
と、書かれている。
「イルカなの~っ!」
びっくりしたのは、わたしの方だった。
これまでずっと、魚だと思っていたのに。
確か、鯛焼きみたいな「うろこ」が、ついてなかったっけ?
イルカはすべすべだよなぁ。

「ドルフィンが、名古屋城のシンボルなんだね!」
と、べラはうれしそうだがが、わたしはどうにも納得できず
しばらく不思議な気持ちに包まれていた。

お城の中の展示室では、「ふすま絵や屏風絵、欄間絵展」が催されていた。
わたしも久しぶりだったので、
「竹に虎」や「植物にきじ」といった、日本の美しい構図、
「緑と金」の美しい色の組み合わせに、思わずため息がもれた。
西洋画に慣れた目に、それはとても新鮮に映った。
東洋的なモチーフや、色づかいはもちろんだが
わたしの心を一瞬にしてつかんだのは、その「空間の使い方」だった。

大きな4枚組みのふすま絵。
左右のふすまの両はしに竹林が描かれ、
その影から虎が一頭、こちらを睨みつけている。
問題は、ふすま絵の中心となる、正面の2枚。
西洋画でいうと、一番描き込まれる部分であるが
ここにはほとんど「何も描かれていない」。

一見「無」「空」に見える、その空間。
が、よくよく見てみれば、そこが強烈なエネルギーに「満ちて」おり、
季節の風や、竹の揺れる音、土の匂い、虎の息遣いなどで
荒々しいほど「満」なのが、わかる。
これらの絵は、鑑賞者が「感じとる」時間や動き、
季節や音、匂いを宿して、存在している。
そのための、「空」なのだ。

その強烈な発見に、しばらく絵の前から動けなかった。
ピカソ美術館でも、ダリ美術館でも
感じなかった「衝撃」だった。

そして、同時に「自分の中の東洋性」に、はっきりと気づいた。
スペインの家で壁を塗っているとき、壁に描いているときは気づかなかったが
わたしが描いていたのは、ふすま絵や、屏風絵だったのではないか。
時間を、季節を、匂いを、動きを、音を、「描きこむ」
壁に、ドアに、柱に、「生命を宿らせる」。
それは、限りなく「東洋的」な概念、メンタリティだと思う。

壁に貼ってあった「展示会のポスター」が欲しくて
お姉さんにたずねてみてほしい、とべラが言う。
聞いてはみたが、売り物ではないのでダメ、とのこと。
がっくり肩を落としていたが、その数時間後なんと
不思議なめぐりあわせによって
一枚の「日本画」が、べラの手に届けられることになったのだった。

(「ニッポン驚嘆記・31」につづく)

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「30.名古屋城・金シャチの正体」への2件のフィードバック

  1. シャチがDolphinって、それ、生物学上の分類ですよね。DolphinっていうよりOrcaの方がしっくりくるけど、どちらも天守閣にある鯱とは違うと思う。

    鯱は「姿は魚で頭は虎、尾ひれは常に空を向き、背中には幾重もの鋭いとげを持っているという想像上の動物」(Wikipedia「鯱」から引用)だそうです。Wikipedia「鴟尾(しび)」には「鯱(海に住み、よく雨を降らすインドの空想の魚)」とあるから、「鯱=魚」でいいんじゃないのかなぁ。。。

    以下、WikipediaのURLはっときまーす。

    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AF%B1
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B4%9F%E5%B0%BE

  2. クロ隊長、ありがとうございました!
    今やっと、納得できました。

    鯱は「姿は魚で頭は虎、尾ひれは常に空を向き、背中には幾重もの鋭いとげを持っているという想像上の動物」って、かっこいいなぁ。
    まさに、そういう外見ですね。うんうん。
    「火よけのまじない」というのも、納得です。
    名古屋城の守護獣。
    すばらしい!とても、感動しました。

    ところで今、「もも衣・春夏コレクション」の
    ペインティングの柄を考えているのですが
    「シャチ」もいいかもしれませんね。
    名古屋の、ニッポンの「守護獣」。惹かれる~♪

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