台風19号が日本に上陸して、甚大な被害をもたらした。私はマラガにいて、朝から筆を握っている。そんな自分自身が非力に思え
「アーティストとしてできることは何だろう」
と、朝からずっと考えていた。アートに命を注ぐ人間として、何ができるのか。その答えを自分なりに出さないと、前に進めない気がした。
災害の現場で最も必要な援助は、命に関わるもの。避難所や食料の確保、病院、家族との連絡、セキュリティ・・・そこに、アートの出番はない。
だったらなぜ、アートが必要なのか。人間にとって。答えが出ないので、少し範囲を広げて考えてみることにした。音楽や文学や、映画やスポーツ、演劇や伝統芸能・・・
それらに、何ができるのか。そこでようやく、ぼんやりと光が見えてきた。災害の現場において、それらはそろって
「今すぐ役に立たない」
のだ。当たり前だが、名画より水と食料。映画より、屋根や布団に決まっている。その一方で「これからの復旧生活」を考えると
「そこにアートの出番がある」
ような気がした。アートや文学は、空腹を満たすことはできない。痛みを和らげてあげることも。
しかし。心の痛みを和らげたり、心に光を差し込んだり、潜んでいるパワーを目覚ませたりすることが、できるんじゃないだろうか。
「良質の刺激(感動や発見や癒し)を心に届ける」
それが、私の役割。そこまでたどり着き、やっと筆を進めることができた。もう陽は傾いていたけれども。
何もできない自分の非力さ、無力さから、今回の作品は始まっている。こんなことは初めて。
「どうしても届けたいもの」
があって、創る。そんな私を「ビル・エバンス」のピアノが支える。笑うために、泣くために。心を震わせるために、私たちにはアートが必要だ。