アルバラシンへ向かって、クエンカの町を出発。山道を1時間も進むと、アイフォーンを見ていたハビ吉が、いきなり声を上げた。
「あれ、圏外になってる。もものは?」「あ、ほんとだ、私のも」
一瞬の出来事かと思っていた。が、それは数十分続いた。
「ねぇ、圏外ってことは、メッセージとかできないの?」「それだけじゃなく電話もできないよ」「ええっ」
何が心もとないって「対向車が一台もない」こと。
「さっきから車一台も見てないよね。私たちだけなのかなぁ、アルバラシン村に行くの」
そこで、やっと理解した。アルバラシン村が『陸の孤島』なのではなく、そこにたどり着くまでが、すでに陸の孤島。デッドゾーンなのだ。
走っても走っても、村はもちろん民家一つない。ひたすら山道。だんだん不安になってくる。
「もし、ここで車が故障しても、誰も呼べないんだよね」「8時間くらい待てば、車一台くらい通るんじゃない」「はあっ?」
ラジオに雑音が入り混じり、聞き取りにくいなぁと思ったら・・・ぷつっと消えた。いったいここは。まるで別の時空に入りこんでしまったかのよう。
「少なくとも10キロ、15キロおきに村はあるから、歩いて行けるよ。何かあっても」
ありがとう。朝食バイキングでお腹がはちきれそうなほど食べといてよかった。でも、こんな標高1600メートルの山道は、きっとめちゃ寒くて暗いよね。
懐中電灯持ってないから、アイフォーンの光で歩くのかなぁ。想像がふくらむ。クエンカの旧市街で、昨夜びびっていたことなんて「子供の散歩」だ。電話が使えるのだから。
「野生動物飛び出し注意!」「落石に注意!」「急カーブ注意!」
次から次へと、けしかけてくる道路脇の標識。アルバラシンへの道は遠い。
「陸の孤島。その周りにはデッドゾーンが」
みなさん、おぼえておきましょう。
「どうか無事、アルバラシン村に着けますように」
ハビ吉の安全運転のおかげで、クエンカを出発して3時間後、ついにその願いは聞き届けられた。
(明日に続く)