劇場へ向かう前に、小さなスーパーへ寄る。ネギ、生姜、卵、ブロッコリー、バナナ、オレンジ・・・大切な食料品をずっしりと買い込み劇場へ。
「セルバンテス劇場へ、ネギの飛び出たスーパーの袋を抱えて入る」
のは、これが初めて。さすがクリスマス公演の「白鳥の湖」。おしゃれないでだちで訪れる人が多い。
そんな中、私は4枚の重ね着。もこもこの上、髪の毛は洗ってきたもののまるでセットされておらず、ほぼノーメイク。
「私の姿を見て、驚かないように」
と予めメッセージで、ダビーに釘を刺しておいた。が、そのダビーが、待っても待っても待ち合わせの劇場入口に現れない。
「タクシーが全然つかまらなくって。今そっちに向かってる!」
ギリギリまで待ったが、開演5分前。私は静かに入場係のお姉さんに、チケットを見せながら尋ねた。
「もし、開演時間に間に合わないと、どうなりますか?」
親切なお姉さんでよかった。結局、ダビーのフルネームをチケットにボールペンで書き込み、お姉さんに手渡し、私は席に着くことができた。
そして。開演1分前。呆然とした表情でダビーが劇場内に駆け込んで来た。やれやれ。挨拶も早々に、バレエ「白鳥の湖」の幕が上がる。
舞台から5列目なので、動きや表情がよく見える。愛しくはかなげな白鳥と、意志の強い小悪魔的な黒鳥との対比が、いつもながらおもしろい。
それに何より、私はチャイコフスキーが大好き!なので、音楽を聴いているだけでもう幸せ。「パ・ド・ドゥ」何度聴いても、何度見ても感動〜。
たとえ今の自分がぼろぼろでも(風邪でも何でも)美しいものに「触れる」だけで、十分セラピー!実はこれまでに「バレエ・白鳥の湖」を
「4回観たことがある」
と、いばってダビーに言ったら
「僕は7回」
と言われた。だからこそ、見比べることも、できる。確か2年前、一人マドリッドで「白鳥の湖」を観たっけ。当日券が数枚だけ売り出されていると知り、列に並んで・・・
「白鳥の湖」は私のお気に入り。なので、機会があればこれからも見続けたい。その愛のおかげなのか舞台を見つめる間、咳は一つも出なかった。
っていうか(笑)私よりもっとずっと具合の悪そうな人がいっぱい。ものすごい咳。「なんか全然大丈夫じゃん、私」みたいな。
いつも思うが、この「動いていれば治る」「ベッドが人を殺す」感は、どこから来るんだろう。風邪でも松葉杖でもみんな動き回っている。先人の知恵なのか。
「これからどうする?何かつまむ?」
ダビーに会うのも久しぶりなので、本当はもう少し一緒にいたかった。でも、咳がぶり返してきたのでそのまま帰宅することに。クリスマス市のお店がにぎやかに並ぶ。
「お腹すいた〜」
バス停へ向かう途中、がつんと強烈な空腹に襲われた。やはり動くと、お腹は空くのだ。でも、外食する気力はない。なにより家に早く帰りたかった。と、その時・・・
「お買い得品!テイクアウト寿司パック」
うそ。買っちゃおう。なんだか急にうきうきしてきた。家に帰ったら、温かい野菜&卵スープと寿司で、一人クリスマス祝いしよう。
あ、ごめん。二人だったね。自分のイスにお利口さんに座って、分け前を待つオウム。「ゆで野菜とゆで卵」おいしい?
やっと気分は、フェリス・ナビダー!これでぶり返さないことを祈るのみ。明日から家で再びおとなしくしてます。