風に守られた渓谷

【一日一作プロジェクト】ペイント衣で「ベガと月光(つきぴかり)」を作った。昨日の続き。山間地帯をひたすら走る。いくつ目かのカーブを曲がった瞬間

「うわっ、絶景ーーー!」

車を脇に止めて飛び出す(写真)そこが「エル・チョーロ」。マラガの秘境。7月なのに人っ子一人いない。辺りはシーーーーーンと静まり返っている。ハビ吉が奥の山々を指差す。

「あの向こうが『カミニート・デル・レイ』だよ」

突然の強風で入場禁止となり、たどり着けなかった自然遊歩道。最初は残念に思っていた。でも。一日を風の中で過ごすうち、考え方がすっかり変わった。カミニート・デル・レイを含むこの渓谷は

「強風に守られている」

のだ。人々を寄せつけない。聖域。自然の力で、自らを守る。ふと、そんな物語を作りたいと強く思った。私などがたどり着けなくても、存在している事の方がずっと大切。

「そろそろ帰ろうか。うちでひと休みしよう」

山々が遠くなる。マラガに近づくにつれ、開けた平地に家々が広がり始める。今回『カミニート・デル・レイ』の強風クローズは、私の心に小石を投げた。

たとえ自然遊歩道を歩けなくても、そこに存在している。その場所を大切に思うだけで、私は十分に満たされていた。

「自分で体験しなくてもよくなった」

それは、なんという穏やかな幸福感なのだろう。若い頃は何でも自分で体験しなくては気がすまなかった。旅でも、おいしい料理でも。

今の私は、自分の五感を「快感で満たす」ことに、さほど興味がない。もっと幸福を感じる瞬間が、あたりまえの毎日、日常生活の中に散りばめられているからだ。

「また来ても、来なくてもいい」

50代になるのは、なかなかいい。と思う。そして最後に。こんなステキな時間をプレゼントしてくれたハビ吉。本当にありがとう。20年以上も私の友達でいてくれて。

「お腹が空いてるはず」と、おやつのサンドイッチを作ってくれて(写真)。「汚い足でソファに乗るな」と叱ってくれて(写真)笑。

夕食は海岸通りへ。焼きイワシとガスパチョでシメ。これぞマラガ。いつまでも私のかけがえのない弟でいてね。

★Las fotos no son del hoy.  Es un reportaje del pasado. 

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