【一日一作プロジェクト】ベラの誕生日に毎年ピアノを弾き、海へ行くことにしている。今年は「百夢(ももゆめ)キッス」を作り、うちの前の海へ。
「ベラ!フェリス・クンプレアニョス」
海にぷかぷか浮きながら、ベラを思い、この5年を思った。なんて私の人生は変わってしまったことか。
5年前、私は「音楽屋」だった。毎日、音楽と共に生き、私たちのマンションからピアノとバイオリンが聞こえない日はなかった。
あまりにこの5年で生活が変わり、私自身、前いた場所からあまりに遠く離れて
「ベラといた時期が夢だった」
ように思える。それくらい、私の人生は一変した。無我夢中で生き抜いた。立ち止まったら崩れてしまいそうで。この5年、夢中で駆け抜けた。
「ソファやテレビも捨てて」
立ち止まれないように(笑)。今でこそ笑い話だが、当時は真剣だった。
「人生の真ん中に『アート』を据えるなら、家の真ん中にあるのは『アトリエ』だろう」
そう思い、すぐに行動に移した。周りの人たちは口を揃えて「ロカ(クレイジー)」「そこまでしなくても」「きっと後悔する」と言った。
でも、私は一瞬で決めた。その時、私が捨てたのはテレビやソファじゃない。温かい二人暮らしからの卒業。これからどんな荒波が待ち構えていようとも
「アーティストとして生きる」
決断を今、自分はしたのだ。と、はっきり感じていた。そんなことを思い出しながらアトリエを見回すと、不思議な気持ちに包まれる。
「この作品のどれも知らないんだよなぁ」
ベラも、母も。2人が亡くなってから、私はアーティストとしてスタートした。だから、どん底で決意した、私の決断も知らない。
その後、名古屋で開催させていただいた展示会。超多忙を極めたピアノ教室。そして通い始めたダンス教室。
今、私がセビジャーナスやルンバ、ベルディアーレスやブレリアを踊っていることも、もちろん2人は知らない。不思議なことに
「2人が知らないこと」
が、今の私の人生の中心を占めている。わずか5年で。今の私は「作業場」に住んでいる。作業場の中に、寝る場所がある。もしあのまま「音楽屋」を続けていたら
「この作品はどれ一つ生まれなかった」
その事実に愕然とする。人生はサプライズを隠し持っている。ベラを亡くした頃は、毎日毎日泣いていた。どれだけ泣いても涙は枯れることなく、これから先
「今まで以上の幸せ」
があるとは、とても思えなかった。なのに。今の私は笑っている。自分で決めた道の上に立って。まだ先は全く見えないけれど。
「百夢キッス(ももゆめキッス)」
キスの中に、百の夢が咲いている。色鮮やかな捧げものアート。天国からよく見えるように。ベラ、笑ってる私、見える?