【一日一作プロジェクト】石にピンクゴールドでペイントして「夕燃(ゆうもえ)」を作った。今日はハビ吉の送別会。
「マラガ最後の夜、何が食べたい?」「エスペート!(焼イワシ)」
即答(笑)。これぞ、マラガ飯。1人2皿。12尾をペロリとたいらげる。聞けば、これからハビ吉が向かうA市には、焼きイワシはないそうな。
「どこでもあるんじゃないの?海岸沿いなら」
ハビ吉が、静かに首を横にふる。「これはマラガの名物なのだ」と誇り高く言い放ち、さらに嘆きの口調で
「ももは、マラガから出ないから知らないんだよ。ってか、このパロ地区から出ないじゃん」
まぁ、確かに。昨年のロックダウンから「片道1時間以内」が習慣になってしまった。移動が長いとマスクで息苦しいから。さっと出かけてさっと帰るゲリラスタイル。
「A市の名物料理は、ももの大好きなパエジャだよ」
確かに、好きだ。しかし。いかんせん遠すぎる。筋金入りのものぐさなので、基本的に腰は重い。にもかかわらず
「好きなことには、非常に軽い」
ので、この差が問題なのだ。ハビ吉は「A市に遊びに来てくれるよね」と、ほぼノーの可能性のない尋ね方で念を押す。
「いやぁ、バスでも6時間半かかるんだよねぇ?」
ちょっと遠いなぁ、と言葉を濁したその瞬間、ハビ吉の目がぎらりと光り、その口元に皮肉な笑みが浮かんだ。
「へぇ〜。陶芸教室にはバスを乗り継いで、片道2時間かけて行くんだよね」
この「印籠」のように持ち出してくる、お決まりのフレーズな何なのか。それも、もう2年近く前のことなのに。
「とにかく交通機関をよく調べてみよう」
希望的観測で、無理やりシメる。さて。スペインはこの6/26より
「屋外はマスクなしで歩ける」
ようになった。実に1年3ヶ月ぶり。丸々1年「マスクをしてないと罰金」だったので、その緊張感がまだ体や心の芯に残っている。レストランを出て、ビーチに向かって歩き出した瞬間
「あっ、まずい。忘れた」
と体が勝手に反応する。恐るべし。マスクなしで砂浜の上を歩く。こんな当たり前のことが
「1年3ヶ月ぶり」
本当に長かった。海風を顔に感じながら、歌い、踊り、笑う。夏の匂いを、鼻の穴を広げて吸い込む。なんて平穏な夕暮れ。なのに明日には、もうこの景色の中にハビ吉はいないのだ。
「体に気をつけて。仕事がんばってね」
ぽつりと言った。ぶっきらぼうに。不機嫌な口調で。なんで、ここにいないんだ?どこに行くんだ?マラガを離れて。だんだん腹が立ってくる。
「休みの日には戻ってくるよ」
ハグをして、手を振って見送り、背を向けて1人歩き出した。家に向かって。気づかないようにしていたものが、堰を切ってあふれ出す。
「私は、さみしかったのだ」
たぶん。置いていかれるような気がして。家のドアを開けた瞬間、オウムの絶叫が響き渡る。
「どこに行ってたの⁉︎」「ひとりぼっちだった」「さみしかったよー」「お腹すいた!」「遊んで〜」
なんて要求度(笑)。パチンとスイッチが切り替わる。そう、このアトリエが今の私の居場所。今いる場所で、今できることを!全ては、今いる場所から始まる。